過年度の未消化有給休暇、雇用主に金銭補償の義務はあるか

未消化の年次有給休暇を期限内に消化するよう雇用主が被用者に促さなかった場合、有給休暇の権利は期限後も失効せず、当該被用者には有給休暇を現金に換算して支給(金銭補償)するよう請求する権利が発生する。これは欧州連合(EU)司法裁判所(ECJ)が昨年11月に下し判決である。ドイツの最高裁である連邦労働裁判所(BAG)は同判決を受けて今年2月、期限内に消化しなかった有給休暇は自動失効するとした従来の判例を改めた(2月27日の本誌コラムを参照)。

では、この権利が有効なのは現年度に限られるのだろうか。それとも過年度にも権利がさかのぼって適用されるのだろうか。この問題を巡る係争でケルン州労働裁判所(訴訟番号:4

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242/18)が4月の判決(訴訟番号:4

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242/18)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は薬局に配達係として勤務していた元社員Sが同薬局を相手取って起こしたもの。Sの勤務時間は週30時間となっていたが、労働契約の9条には「Sは自らの希望で年次有給休暇を、週の勤務時間を短縮する形で取得する」と記されており、実際の勤務時間は27.5時間だった。

被告薬局はSを2017年3月末付で解雇した。これを受けてSは、未取得となっている14年以降の有給休暇の金銭補償を要求し提訴した。

一審のアーヘン労働裁判所は、現年度の17年については請求権を認め、378ユーロの支払いを被告に命じたものの、過年度の14~16年については当時有効だった判例を根拠に請求権を退けた。

二審のケルン州労裁は一審判決を破棄した。判決理由で同州労裁の裁判官はまず有給休暇法(BUrlG)の規定を根拠に、有給休暇は一度に数日以上の単位で与えられなければならないと指摘。週の勤務時間を2.5時間減らす形の有給休暇はBUrlGに定める有給休暇に当たらないとして、原告と被告の労働契約9条は違法で無効だと言い渡した。

そのうえで、11月のECJ判決に基づくBAGの新判例に基づき、原告には未消化の有給休暇の金銭補償を受ける権利があると指摘。この権利は17年に限らず、過年度の14~16年の有給休暇にも及ぶとの判断を示した。

被告がこれを不服としてBAGに上告したことから、判決は確定していないものの、BAGがケルン州労裁の判断を支持すると、企業によっては訴訟と追加コスト発生のリスクにさらされることになる。

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