スイスの電池メーカー、イノリス(バーゼル)がリチウムイオン電池の弱点を克服する「夢の車載電池」の開発に取り組んでいる。実用化されれば、電気自動車(EV)が一気に普及する可能性もあり、注目を集めている。同社関係者への取材をもとに『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が報じた。
リチウムイオン電池は近年、性能が向上しているものの、◇航続距離が短い◇充電に時間がかかる◇価格が高い――という難点は依然として克服されていない。発熱して発火するというリスクもある。
イノリスはこうした問題をすべて解決する電池を開発している。カギを握るのは二酸化硫黄をベースとする電解液だ。同電解液は発火しないことから、リチウムイオン電池と異なり面倒な温度管理を行う必要がない。このため安全性が高いだけでなく、コストも抑制できる。
エネルギー密度が高いのも強みだ。現在のリチウムイオン電池では1キログラム当たり500ワット時が限界だが、同社の電池では最大1,000ワット時が可能だ。この水準が実現すると、航続距離は1,000キロ超に拡大する。
同社の製品は電力網調整用の蓄電池としてすでに米国で利用されている。車載電池を実現するためには小型化という壁をクリアする必要がある。米国やアジアの企業は同社の技術に関心を示しているという。
イノリスは電解質だけを自社生産し、その他の技術はライセンス供与する事業モデルを採用している。これにより潜在的な競合企業を「パートナー」化する狙いだ。
イノリスはロシアの投資家であるドミトリー・リボロフレフ氏の傘下企業。開発は西南ドイツのブルッフザールで行っている。