水素輸送網の構築をパイプライン事業者が計画、既存インフラ活用

水素輸送網をドイツ全国に張り巡らすことを、天然ガスパイプライン運営事業者の業界団体FNBガスが計画している。天然ガス需要は長期的に縮小が見込まれることから、将来性の高い水素の輸送に漸次、切り替えていき、既存のパイプラインを有効に活用する狙いだ。経済紙『ハンデルスブラット』が同団体の役員への取材をもとに28日、報じた。

天然ガスは同じ化石燃料の石炭に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない。このため、石炭発電の全廃方針を掲げるドイツ政府は石炭発電の減少分の一部を当面、天然ガス発電で補う考えだ。

だが、政府はCO2の排出量を差し引きでゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年までに実現することを目指していることから、天然ガス発電もいずれは姿を消す見通し。ガスパイプライン運営事業者はこれを踏まえて、水素輸送への転換を模索している。

FNBガスに加盟する企業がドイツで運営するガスパイプラインは計4万キロメートルに上る。同団体の計画案によると、まずは総延長5,900キロの水素輸送網を構築する考えで、そのうち90%を既存パイプラインの転用でカバーできるとみている。天然ガスの輸送需要減少に合わせて水素輸送への転用を増やしていく。

水素は再生可能エネルギー電力を用いて水を電気分解して製造すればCO2が排出されないが、現時点では商業ベースの製造技術が確立されていない。このためFNBガスは当面、天然ガスから水素を取り出す現行方式を念頭に置いている。水素の取り出しに伴って発生するCO2は地中に貯留し、大気中に放出されないようにする。

将来的には風力発電の電力で水を電気分解する技術が商業的に確立すると予想しており、水素を主に風力発電が盛んな独北部で製造し、南部や西部に輸送する構想だ。独北部では風力発電で生み出された電力から水素を製造するパイロットプロジェクトが計画されており、当局が承認すれば動き出すことになっている。

化学や鉄鋼といったエネルギー集約型の企業は石炭、石油、天然ガスに代わるエネルギー源として将来的に水素を利用することを検討している。環境に優しい水素の供給体制が整えば、水素を動力源とする燃料電池車も普及のチャンスが高まることから、政府は現在、水素戦略を策定中だ。

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