特殊化学大手の独エボニック(エッセン)は5日、医薬品の原薬と中間体の国内生産を拡大すると発表した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、原薬を欧州で製造することの重要性が再認識されるようになり、ニーズがにわかに高まってきたことに対応する。治験と商業生産向けの原薬などを欧州の製薬会社に供給する体制を改善する意向だ。
原薬は医薬品の有効成分で、原料を中間体に加工したうえで製造する。原料・原薬は価格競争を背景にこれまでは生産コストが低い中国とインドで主に生産され、世界各国の製薬会社に供給されてきた。
だが、新型コロナの中国での流行を受けてインド政府は3月初旬、計26種類の原薬と、これらの原薬で作られる医薬品の輸出を禁止した。背景には、原料の主要な供給元である中国での原料生産が大幅に減少したことがある。インドの原薬メーカーは原料調達に苦慮するようになったことから、政府は国内での医薬品供給不足を回避するために輸出禁止に踏み切った。インド製の原薬に投入される原料の約70%は中国から輸入されている。
インドの原薬輸出制限を受けて、欧州などの製薬会社は今後の原薬確保に懸念を持つようになった。欧州各国も中印への強い依存を警戒している。
エボニックはこうした流れを踏まえ、独ドッセンハイム、ハーナウ工場での原薬・中間体生産能力を拡大する。第一弾として来年半ばまでに2,500万ユーロを投資する予定だ。生産能力の拡張は2023年末までに完了するとしている。生産能力の規模については情報を公開していない。