英製薬大手アストラゼネカは12日、英オックスフォード大学と共同で開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンについて、英国での臨床試験(治験)を再開したと発表した。同社は有害事象の発生を受け、今月6日から世界各地で行われている治験を中止していたが、安全性が確認されたとして、英当局から再開が認められた。日本を含む他の国でも早期に治験が再開できるよう、保健当局などと協議を進める方針を示している。
同社のワクチンは英国で治験の最終段階に入っていたが、被験者の1人に深刻な神経症状がみられたため、すべての治験を中断。有害事象がワクチン接種による副反応なのか、単なる偶然なのかを解明するため、独立委員会がデータを分析して安全性を確かめていた。同委がワクチンの安全性に問題はないと結論づけ、保健当局が治験の再開を許可した。
アストラゼネカは「これ以上の詳しい医療情報を開示することはできない」としたうえで、英国以外でも早期の治験再開を目指す方針を示した。同社が5月に開始した英国での治験には、5歳から70代までの1万2,000人以上が参加している。米国では今月に入り、3万人の登録を目標に第3相試験を開始。ブラジルや南アフリカでも第3相試験が行われているほか、日本でも初期段階の治験に入った。今後はロシアでも治験が行われる予定で、世界全体で5万人の参加を目指している。
アストラゼネカはこれまでに、各国政府との間で約30億回分のワクチンを供給することで合意している。日本政府も先月、同社から1億2,000回分の供給を受けることで基本合意し、このうち3,000万回分は来年3月までの確保を目指すことになっている。
ワクチン開発には通常、5年~10年程度を要するが、新型コロナのワクチンは1年以内の実用化を目標に、異例のスピードで開発や治験が進められている。ロシアは8月に自国産のワクチンを世界で初めて承認したほか、米国では治験終了前に条件付きで投与を認める「緊急使用認可」が検討されている。
こうした中で新型コロナのワクチン開発を進める欧米の製薬会社9社は今月8日、安全性を最優先するとの共同声明を発表し、最終段階の治験が完了して安全性と効果が確認されるまで、当局に承認を求めない方針を表明した。米大統領選挙に向けた政治利用や、ワクチン供給を通じて新興国への影響力を強めようとする中国やロシアの動きをけん制する狙いがある。