ドイツでは男女間の不当な給与格差是正に向けて2017年7月に報酬透明法(EntgTranspG)という法律が施行された。事業所委員会(Betriebsrat)の執行委員会(Betriebsausschuss)は同法13条2項第1文に基づき、給与明細リストの閲覧・利用権がある。この規定に絡んだ係争で、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が7月の決定(訴訟番号:1 ABR 6/19)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は通信会社の事業所委員会が同社を相手取って起こしたもの。同社では報酬透明法の施行後、自らの給与が公正な基準で決定されているかどうかに関する情報を開示するよう多くの社員が請求したことから、雇用主は全社員への情報開示を決定。pdf化した給与明細リストを事業所委員が閲覧、印刷できるようにした。
原告の事業所委員会はこれに対し、pdfファイルではデータを利用できないとして、エクセル形式ないしテキスト形式の給与明細リストを要求。これが拒否されたため、提訴した。
原告は一審と二審でともに敗訴。最終審のBAGでも決定は覆らなかった。決定理由でBAGの裁判官は、執行委員会の給与明細リスト閲覧・利用権は、個々の被用者が開示請求したときに発生するものだと指摘。雇用主が全従業員に情報を開示することでこの義務を自ら果たした場合は、執行委にリストの閲覧・利用権は生じないと言い渡した。