欧州委員会が11月30日に公表した報告書によると、EU域内における温室効果ガス排出量は2019年に前年比3.7%減となり、1990年との比較では24%減少した。この間に域内総生産(GDP)は60%増を記録しており、経済成長を維持しながら排出削減を実現できることが改めて確認された。今年は新型コロナウイルスの影響で域内の多くの国で生産活動が制限されたため、欧州委は20年の排出量を前年比8%減と予測している。ただし、景気回復に伴い来年以降は反動で排出量が増加に転じる可能性があるため、EUが目標に掲げる50年までの気候中立の実現に向け、加盟国にグリーンエコノミーへの移行に向けた取り組みを強化するよう求めている。
「気候行動に関する進捗状況報告書:気候中立に向けた行程の始まり」と題する報告書によると、EU排出量取引制度(EU-ETS)の対象施設からの温室効果ガス排出量は前年比9.1%減となり、二酸化炭素(CO2)換算で1億5,200万トン減少した。電力部門では石炭発電から再生可能エネルギーや天然ガスによる発電へのシフトが加速し、前年比15%減と大きく貢献した。これに対して産業部門は2%減にとどまり、航空部門(欧州経領域内の発着便のみ)は前年の水準を1%上回った。輸送、建築、農業などEU-ETSの対象外となっているセクターからの排出量はほぼ前年並みだった。
一方、EU-ETSの対象施設が入札で必要な排出枠を獲得する際のオークション収益は、EU加盟国と英国、欧州経領域(EEA)のアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた31カ国で総額141億ユーロに達した。オークション方式が導入された12年からの累計は570億ユーロに上り、このうち18年と19年が半分以上を占めている。19年はオークション収益の77%が気候変動対策に利用されている。
欧州委のティマーマンス上級副委員長(欧州グリーン・ディール統括)は「EUは温室効果ガスを減らしながら経済を成長させることが可能であることを証明した。しかしながら今回の報告書から、50年までの気候中立を実現するため、全てのセクターでさらに取り組みを強化する必要があることが確認された」と述べた。