英国の競争・市場庁(CMA)は8日、巨大IT企業に対する新たな規制案を発表した。ネット広告を主な収入源とする米グーグルなどのプラットフォーマーが市場支配力を強めている現状を是正するため、法的拘束力のある行動規範を策定し、違反した場合は世界売上高の最大10%に相当する制裁金を科せるようにする。
英政府は11月下旬、巨大IT企業を規制する新機関として「デジタル市場ユニット(DMU)」をCMA内に設置し、「GAFA」などに対する監視を強化すると発表していた。CMAは今回、DMU新設に関する勧告をまとめ、プラットフォーマーに対する規則案を盛り込んだ。
それによると、規制の対象となるのはCMAが「戦略的市場地位(SMS)」にあると判断した大手IT企業。これまでのところ公式にSMSと認定した企業は存在しないが、事業規模の基準は英国での年間売上高が10億ポンド(約1,375億円)超、または世界全体の売上高が250億ポンド超としている。ちなみにグーグルと米フェイスブックの2019年の世界売上高はそれぞれ約1,200億ポンド、530億ポンドだった。
CMAによると、英国では約140億ポンドに上るデジタル広告市場でグーグルとフェイスブックが合わせて約80%のシェアを握っており、両社は市場支配的地位にある。また、米アップルのアプリ販売サイト「アップストア」も規制対象になる可能性がある。
このほか規制案には合併・買収(M&A)の監視を強化するため、対象企業に全ての案件について報告を義務付けることが盛り込まれている。CMAによると、グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾン、マイクロソフトの米5社は18年までの10年間に合わせて約400件の買収契約を結んだが、競争当局の審査対象となった案件は「ごく一部」にとどまり、買収が措置されたケースは1件もない。DMUは従来よりも厳格な基準に沿って、M&Aがデジタル市場に及ぼす影響を評価することになる。
DMUは21年4月に発足予定だが、新規制を導入するための法整備が完了するのは22年以降になるとの見方が有力だ。CMAのコシェリ最高責任者は「英国が引き続きIT産業の恩恵を受けるには、グーグルやフェイスブックなどの巨大企業に依存する消費者や企業が公平に扱われる必要があり、競合企業に対しても公正な競争条件を確保しなければならない」と強調。「そのため英国は新たな権限とアプローチを必要としている。つまり、技術革新を推進しながら問題解決に向けた迅速な行動を可能にする、時代に即した規制体制が必要だ」と述べた。