ロシアの国営金融・テクノロジー大手ズベル(旧ズベルバンク)はこのほど、電子商取引(EC)専従の事業部門を設置する計画を明らかにした。物流事業のズベル・ロジスティカと食品配達サービスのズベルマーケットなどが同部門に移管される見通しだ。ズベルマーケットは同社が国内ITサービス大手メール・ル(Mail.ru)グループと折半出資する合弁会社O2O(オンライン・トゥ・オフライン)内の事業部門だが、ズベルは同社を単独で子会社化する意向を持っており、株式取得に向けて120億ルーブル(1億3,200万ユーロ)を投資する予定とされる。ズベルとメール・ルはO2Oを昨年末に設立したものの、事業方針の不一致から現在は提携関係の見直しに入っている。
O2Oの傘下企業にはフードデリバリーのデリバリークラブ及びローカルキッチン、食品配送サービスのサモカート、グルメサイトのズベルフードがある。ズベルは2023年までにロシアのネット販売上位3社に入るという目標を掲げており、来年にも新しいアプリや複数のカテゴリーを持つマーケットプレイスの提供を開始する予定だ。
ズベルはこれまで他社との提携を通じネット通販事業を拡大する戦略をとってきた。同社は2017年にIT大手ヤンデックスとネット通販事業で合弁会社を設立することで合意し、5億ドルを投じて越境取引を行う「ブリングリー(Bringly)」と国内事業を行う「ベル(Beru)」を立ち上げた。しかしブリングリーは1年後に閉鎖され、ベルはヤンデックスの傘下に入るなど順調には進んでいない。同社幹部によると、今後新たに中堅企業を対象に買収を行う可能性がある。
ズベルは今年初めに国内EC第2位のオゾンの株式の取得を目指したが交渉はとん挫した。最近では家電チェーンの「M.Video」との間で、同社のECプラットフォーム「Goods.ru」運営での提携について議論を開始した。「Goods.ru」の昨年の売上高は86億7,000万ルーブル(9,540万ユーロ)。2018年実績の2.7倍と急成長しているものの、依然小規模なものにとどまっている。一方、市場調査会社データインサイトによれば、ロシアにおけるオンライン通販の総売上高は今年2兆5,000億ルーブル(275億2,200万ユーロ)、24年には7兆ルーブルに達する勢いだ。
ズベルバンクはここ数年で国営貯蓄銀行からデジタル企業へと脱皮を遂げた。同社は現在、食品配達に加えライドシェアサービスや検索サイト「Rambler」を展開するO2Oのほか、マッピングサービスの「2GIS」、映像ストリーミングサービスの「Okko」、音楽配信の「Zvooq」といったメディア・エンターテイメント企業も傘下に抱えている。
ロシアのEC市場には多数の企業がひしめいており、上位5社のシェアは全体の4分の1と比較的小さい。アマゾンが米国で市場の半分、主要欧州諸国で3分の1以上を押さえているのと対照的だ。
同国のネット通販大手には、ワイルドベリーズ、オゾン、中国アリババとの合弁企業アリエクスプレス・ロシア、メール・ルグループ、通信大手メガフォン、ヤンデックスマーケットがある。ワイルドベリーズは新型コロナに伴うロックダウン(都市封鎖)が実施された今年1-3月期に1,000億ルーブルを売り上げた。またヤンデックスマーケットは今年初めに10億ドルの資金調達に成功している。(1RUB=1.38JPY)