EUがアストラゼネカを提訴、ワクチン供給遅延で

欧州委員会は4月26日、英製薬大手アストラゼネカがEUと結んだ新型コロナウイルスワクチン供給契約を順守してないとして、同社を提訴したと発表した。法的措置を講じることで同社に圧力をかけ、遅れている供給のペースを速めさせる狙いがある。

アストラゼネカのワクチンはファイザー、モデルナ製より安価で、しかも通常の冷蔵庫での保管が可能なことから、EUでのワクチン接種の中心になると目されていた。しかし、供給は生産上の問題を理由に遅れている。

昨年8月に締結した事前購入契約では12月から6月末までに3億回分を供給することになっていたが、同社は3月、その3分の1しか供給できないと発表。4~6月期については予定の1億8,000万回分を大きく下回る約7,000万回分に減るとの見通しを示していた。

EUはアストラゼネカが英国への供給を優先しているなどとして批判してきた。欧州委の報道官は、同社が契約条項の一部に違反しているだけでなく、予定通り供給するための「確実な戦略もない」として、ベルギーの裁判所に提訴したことを明らかにした。

アストラゼネカはEUの批判に対して、事前購入契約が定める供給予定量はあくまで目標で、約束ではないと反論してきた。同社は26日に発表した声明で、契約を完全に履行しているとして、裁判で全面的に争う意向を表明した。

EU内ではアストラゼネカを訴えることについて、ドイツ、フランス、ハンガリーなど一部の加盟国が必ずしも供給のスピードアップにつながらないとして消極的な姿勢を示していたが、最終的に同意し、欧州委が全加盟国の支持を得て提訴に踏み切った。

EUではアストラゼネカのワクチンをめぐり、供給の遅れに加えて、接種後に血栓が発生する事例が確認されたことで信頼が揺らいでおり、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンを域内での接種の主軸とする方向に舵を切っている。欧州委は4月中旬、EUがファイザー連合と4~6月分として5,000万回分を追加調達することで合意したと発表。22、23年に計18億回分を調達する方向で交渉を開始したことを明らかにした。それでも当面はワクチンが不足することから、アストラゼネカに圧力をかけるため、提訴することを決めた。

裁判所での審理は28日に開始され、欧州委側はアストラゼネカに対して、EUへの供給拠点として契約に明記されていた英工場を含む全工場を活用し、ただちに出荷を増やすよう要求した。次回の審理は月26日。

上部へスクロール