多国籍企業に国別納税額の開示義務付け、欧州議会と加盟国が指令案で合意

EU加盟国と欧州議会は1日、EU域内で活動する多国籍企業に対し、利益や納税額などの情報を国別に報告・開示するよう義務付ける「国別報告(CbCR)指令」案の内容で合意した。国によって異なる税率や課税ルールを利用した税逃れを厳しく監視して税の透明性を高め、企業が利益を上げた国で確実に納税する仕組みを確立するのが狙い。欧州議会と閣僚理事会の正式な承認を経て新ルールが導入される。

多国籍企業に国別報告書の開示を義務付ける構想は、2013年に発効したEU会計指令の改正案として、欧州委員会が2016年4月に提案した。税務情報が公になることで企業の競争力が低下するといった懸念から一部の加盟国が難色を示し、協議は難航していたが、世界的に多国籍企業に対する課税ルールの見直しを求める声が高まる中、ようやく合意にこぎつけた。

新ルールが適用されるのは、2年連続で世界売上高が7億5000万ユーロ(約1000億円)を超える多国籍企業(域外に本拠地を置く企業を含む)。対象企業はEU27カ国と、EUから租税面で「非協力的」とされた国・地域での活動内容や従業員数、売上高、税引き前損益、課税額と実際の納税額をそれぞれ税務当局に報告すると同時に、ウェブサイトで情報を開示し、誰でもアクセスできるようにしなければならない。

EUは課税逃れ対策に非協力的と判断した国・地域をリスト化し、タックスヘイブン(租税回避地)をブラックリスト、監視が必要な国・地域をグレーリストに分類して定期的に見直しを行っている。現在のリストに沿って国別報告の対象となるのは19カ国・地域で、ブラックリストに掲載されたグアムや米領バージン諸島などと、グレーリストのパナマやフィジー、サモアなどが含まれている。

欧州委員会によると、多国籍企業の税逃れや過度な節税により、EU加盟国は年間500億~700億ユーロの税収を失っているとされる。EU議長国ポルトガルのビエイラ・ダシルバ 経済相は「EU市民が新型コロナウイルス危機の克服に苦慮する中、これまで以上に税の透明性が求められている」とコメント。欧州議会で交渉役を務めたレグナー委員は「今回の合意は欧州における税の正義と透明性の向上に向けて重要な一歩になる」と強調した。

ただ、EU域外の第三国や非協力的な税務当局のリストに掲載されていない国・地域での納税額に関しては、個別の開示義務を免れた。このため欧州議会の左派系議員らは、バハマ諸島やケイマン諸島、スイスなどをはじめとする「悪名高いタックスヘイブン」を含め、「世界の国・地域の80%以上が規制の対象から除外されている」と批判している。

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