EUと英国は12日、英国と締結した離脱協定のうち、英領北アイルランドで導入された通商ルールの見直しを巡る協議を行った。大きな進展はなかったものの、双方は交渉を続けることで合意。英国が「北アイルランド議定書」第16条の特別条項を発動して取り決めの一方的に破棄し、EUによる制裁を招く一触即発の危機はとりあえず回避された。
EUと英国の離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて北アイルランド議定書が盛り込まれ、北アイルランドはEU単一市場と関税同盟に残ることになった。
これによって北アイルランドは英国領でありながらEUの通商ルールが適用される「特区」のような存在となった。英本土から北アイルランドに流入する食品など物品については、国内の移動であるにもかかわらずEUの厳しい食品・衛生基準を満たさなければならず、通関・検疫が必要となる。
英政府は北アイルランドで英本土から流入する物品の通関手続きが必要となったことに伴い、物流混乱の問題が生じているとして、北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの大幅な見直しを要求。これに応じてEUは10月、英本土から入る物品の通関・検疫手続きを大幅に緩和する譲歩案を発表したが、英国側は不満として、さらに踏み込んだ見直しを求めている。
英国でEU離脱問題を担当するフロスト内閣府担当相と欧州委員会のシェフチョビチ副委員長が12日に行った協議でも話し合いは平行線をたどった。ただ、シェフチョビチ氏によると、英国側の態度がやや軟化し、協議を続けることで合意したという。同氏は解決可能な個別の問題に絞って協議を進め、妥結を目指したいとしている。
北アイルランド議定書の第16条には、英国またはEUが新ルールによって経済・社会面などで不足の困難な事態が生じたと判断した場合、取り決めをの一部を履行しないことを認めるという条項がある。英国側は10月初め、同条項の発動を辞さないと宣言し、EUに譲歩を迫った。
しかし、同戦略はEUの反発を招いている。シェフチョビチ氏が10日に加盟国のEU大使に同問題を説明した際、各国は英国が発動すればEUが「断固とした措置」に踏み切ることで合意し、英国への厳しい制裁に乗り出すことで一致したと報じられ、一触即発の状況となっていた。
議定書の見直しを巡っては、北アイルランドの通商ルールをめぐる紛争を欧州司法裁判所の管轄とするルールの撤廃も英国側が強く主張しているが、EUは拒否を堅持している。英国側の態度軟化に同問題も含まれているかどうかは定かでないが、シェフチョビチ氏は同裁判所が「EU単一市場のルールの番人だ」と述べ、譲らない姿勢を改めて示した。