余白一滴

重い決断だと思う。ワクチン接種の義務化である。

新型コロナワクチンの登場後、主要な政治家は皆、接種は任意で、強制はしない考えを繰り返し強調してきた。従来株であれば、現在の接種比率で集団免疫が形成され、接種を受けない人も含めて市民を感染から守ることができたとみられるが、デルタ株では80%でも足りない。非接種者を中心とする感染拡大を背景に医療が極度にひっ迫し、制限措置緩和・終了の目途が立たないことから、やむを得ず義務化に踏み切るわけである。世論調査をみると、市民の7割程度が支持している。これは接種完了者とほぼ同じ割合であり、両者はほぼ重なっているとみられる。

接種を義務化すればコロナのエンデミックと社会生活の正常化を比較的早く実現できる。義務化は公共の福祉と言える。

その一方で、ドイツの政治・社会に長期的に悪影響をもたらすことも懸念される。

ワクチン接種を頑なに拒否する人は極右だけでなく、「普通の市民」のなかにも多いからだ。例えば、日本でも有名なシュタイナー教育の根底ある「人智学」の信奉者は、接種・マスク着用拒否運動「クヴェアデンカー(ひねくれ者)」に数多く参加している。彼らの多くは緑の党の党員や支持層でもある。全体性を重視する人智学はエコロジー思想と親和性が高い。

緑の党を含む主要政党が接種義務化を議会で成立させた場合、これらの人々の多くは裏切られたと感じるだろう。コロナ政策をことごとく批判する極右政党AfDが不満の受け皿になることや、新たなポピュリズム政党が生まれる可能性を排除できない。

友人や同僚間にすきま風が吹き、日々の生活がギスギスすることも恐らく増えるだろう。

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