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2021/12/8

総合 - ドイツ経済ニュース

ワクチン接種義務化で国と州が合意、小売店にも2Gルール適用

この記事の要約

ドイツのアンゲラ・メルケル首相とオーラフ・ショルツ次期首相、および国内16州の首相は2日のテレビ会議で、新型コロナウイルスの感染防止策を強化することで合意した。感染者が急増し、集中治療体制崩壊の可能性を排除できなくなって […]

ドイツのアンゲラ・メルケル首相とオーラフ・ショルツ次期首相、および国内16州の首相は2日のテレビ会議で、新型コロナウイルスの感染防止策を強化することで合意した。感染者が急増し、集中治療体制崩壊の可能性を排除できなくなってきたことに対応。全面的なワクチン接種義務を導入するほか、「2Gルール」を全国の小売店とスポーツ、娯楽、文化の大型イベントにも拡大適用することにした。小売店などの2Gルールは8日現在、州レベルで導入済みだ。

ワクチン接種を完了した人の割合(人口比)は2日現在68.7%。少なくとも1回の接種を受けた人が71.6%上るうえ、急速な感染拡大を背景に新規接種者が再び増えていることから接種完了率が70%を超えるのは確実とみられる。

だが、接種を頑なに拒否する市民も少なくないことから、市民の自由意思に任せたままだと感染力が高いデルタ株への集団免疫を獲得するのに必要な水準は実現できない見通しだ。ショルツ次期首相は「とてもとても多くの市民が接種を受けたが、新たな感染の波が起こらないようにすることを確保するために不十分だ」と述べた。

集中治療を受ける新型コロナ感染者に占める非接種者の割合が9割と極めて高く、集中治療体制を圧迫していることから、国と州はワクチン接種を義務化することにした。2月の実現を見込んでいる。違反者への制裁など詳細は決まっていない。

新型コロナワクチンの接種義務化は憲法で保障された身体の不可侵性に抵触するものの、公共の福祉のためにこの権利を制限することは憲法上、容認される。ドイツではすでに通常裁判の最高裁である連邦司法裁判所(BGH)と、連邦憲法裁判所(BVerfG)が1950年代前半、天然痘ワクチンの接種義務を合憲とする判決を下している。

バーデン・ヴュルテンベルク州政府の委託で法律事務所オッペンレンダーが作成したコロナワクチンの接種義務化に関する鑑定書も、接種を物理的に強制せず、健康上の理由で接種を受けられない人などを免除する例外規定を設ければ憲法上、問題はないと結論付けている。根拠として◇基本的人権から導き出される国民の身体・生命を守るという国家の義務◇医療給付機能の維持◇接種義務化によりロックダウンなどの厳しい制限措置の回避が可能になり自由権をよりよく実現できる――を挙げている。

非接種者に強度の制限措置

2Gは「Geimpfte(ワクチン接種完了者)」「Genesene(コロナ感染からの快復者)」の略。同ルールの適用対象となった施設・場所に入るためには接種完了、感染からの快復のいずれかを証明することが義務付けられる。小売店はこれまで適用対象外だったが、国と州は方針を転換し、スーパーマーケットや薬局など生活必需品を取り扱う店舗を除き非接種者(感染からの快復者は含まない)の入店を禁止する。

2Gルールは規制の最低基準で、感染者数などが比較的少ない州にも適用される。感染状況が深刻な州は接種完了者と快復者に陰性証明の提示も義務付ける「2Gプラス」ルールを導入できる。

非接種者は接触可能な人の範囲も大幅に制限される。市民が私的・公的な場所で他人と会う際に非接種者がいる場合は、一家族に他の家族の2人を加えた人数が許容上限となる(14歳未満は同規制の対象外)。会合参加者が接種完了者・快復者に限られる場合は人数制限が課されない。

非接種者は接種者に比べ自らが感染するリスクと他人を感染させるリスクがともに高い。フンボルト大学の研究者が10月11日~11月7日の国内感染データをもとに作成したモデルによると、ワクチンの有効率を72%と想定した場合、非接種者はドイツ在住者の3分の1にとどまるにもかかわらず、感染件数全体に占める非接種者間の感染は51%と過半数を占めた。非接種者が接種者を感染させたケースは25%、接種者が非接種者を感染させたケースは15%に上っており、非接種者が感染に関与する割合は計91%に上る。

接種者間の感染は9%にとどまる。接種者は重症化リスクも低いことから、非接種者が他人と接触することを制限すれば国内の感染件数と集中治療受ける感染者数を大幅に減らすことができる。

歯科医や薬剤師に接種資格

小売店への2G適用に対し小売業界からは批判が出ている。独小売業中央連盟(HDE)はクリスマス商戦の売り上げが最大50%失われる恐れがあると指摘。この売上喪失は11月下旬に施行された現行の感染防止法で補償対象になっていないとして、同法の改正を要求した。

国と州はワクチン接種を加速するため、歯科医、薬剤師、介護士にワクチン接種の資格を与える方針も取り決めた。また、ワクチンの効果が時間の経過とともに弱まることを踏まえ、ワクチン接種証明に有効期間を設定することで合意した。ワクチンの保有量と接種キャンペーンの進展状況を踏まえ詳細を年末までに決定する。

年末恒例の花火販売は昨年に引き続き今年も禁止される。すでに保有している花火の打ち上げ自体は禁止されないものの、国と州は自粛を呼びかけている。打ち上げで怪我をした人が病院に運び込まれると、コロナ患者への対応でひっ迫している病院の負担が一段と増えるためだ。人通りの多い広場や道路に関しては各自治体が禁止措置を取る。