欧州委員会は12日、南太平洋の島国バヌアツの市民がEUに渡航する際のビザ(査証)取得を免除する措置を部分的に停止すると発表した。同国が「ゴールデンパスポート」制度に基づき、外国人に市民権を乱発していることを問題視したもので、加盟国の承認を経て背式決定する。
ゴールデンパスポートは投資の見返りに国籍を与える制度。バヌアツでは2015年に導入され、13万米ドル以上を投資する外国人に市民権を付与している。こうした外国人は、本国がEUのビザ免除対象国でなくても、バヌアツの旅券を持つことで域内にビザなしで旅行できる。
欧州委によると、バヌアツ当局のゴールデンパスポート申請者に対する審査は甘く、これまでに拒否したのが1件だけ。国際刑事警察機構(インターポール)の犯罪者などのデータベースにリストアップされている人物なども国籍を与えられ、EUにビザなしで渡航できる状況にある。
このため、セキュリティー上の観点で、ビザ免除の部分的停止に踏み切る。同制度が開始された15年5月25日以降に発給されたバヌアツ旅券を保有する人を対象に、ビザ取得を求める。バヌアツ政府が同制度を是正するまで実施する。EUがゴールデンパスポートをめぐり、このような制裁を行うのは初めてだ。
同制度はEUの多くの国でも導入されており、その大半が適正に運用されているが、一部で資金洗浄や犯罪組織による悪用の懸念も浮上している。20年10月にはキプロスとマルタが、ゴールデンパスポートを乱発しているのはEU市民権の「販売」に当たるとして欧州委から是正を求められた経緯がある。