EU加盟国は17日に開いた財務相理事会で、域内で活動する多国籍企業に世界共通の最低法人税率を適用するための指令案について協議した。最後まで抵抗していたポーランドが反対を取り下げたものの、ハンガリーが突然、拒否権を発動し、合意に至らなかった。
欧州委員会は2021年12月、EU域内で活動する多国籍企業に対し、世界共通の最低法人税率を適用するための指令案を発表した。経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心とする137カ国・地域が21年10月に合意した新たな国際課税ルールに沿ったものだ。
この国際合意は、IT企業を含む巨大多国籍企業に対する課税権の各国への配分に関する第1の柱と、多国籍企業の利益に対する最低実効税率を世界共通で15%に設定する第2の柱からなる。欧州委の指令案は、第2の柱を実施し、全ての多国籍企業グループに対して最低限の法人税負担を確保するための「グローバル税源浸食防止(GloBE)規則」を域内で適用するのに必要なルールを定めたもの。多国籍企業に適用する法人税の最低税率を15%に設定し、事業展開する国・地域で実効税率が15%を下回る場合、域内のグループ企業に「追加税(top-up tax)」を課すことなどを柱とする内容だ。
EUでは税務に関する政策決定は全加盟国の同意が必要。同指令案をめぐっては、一部の国が難色を示したが、ポーランドを除いて議長国フランスが3月に提示した妥協案を受け入れ、ポーランドが同意すれば決着する状況にあった。今回の理事会ではポーランドが賛同し、ようやく決着するかのようにみえた。ところが、これまで支持していたハンガリーが拒否権を発動し、決着が先送りされた。
この急展開の背景にあるのが、EUのコロナ復興基金からのポーランド、ハンガリーへの拠出を巡る問題。欧州委は両国に法の支配の順守などで規定を満たしていないとして拠出を認めていなかったが、ポーランドについては1日に承認した。これを受けてポーランドは法人税率で歩み寄ったもようだ。ハンガリーのヴァルガ財務相は急な方針転換について、ロシアのウクライナ侵攻、物価の急上昇が各国の経済、企業を圧迫している現時点では指令案を支持できないと主張したが、あくまで表向きの説明で、同問題での拒否権取り下げを交渉材料に基金からの拠出を認めさせたいという思惑があるのは確実だ。