EUは9日開いた臨時の閣僚理事会で、ロシア人によるビザ取得を厳格化し、EU域内への受け入れを事実上制限することを正式決定した。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する制裁措置の一環。ロシアとの間で締結しているビザ発給の円滑化協定を12日付で完全停止する。
EU加盟国は8月31日の非公式外相会合で、2007年に結んだビザ円滑化協定の停止で合意していた。優遇措置が適用されなくなることで、ビザ申請料金が現行の35ユーロから80ユーロに引き上げられ、提出書類も増えて手続きに時間がかかる。複数回の入国が可能な数次ビザの取得も困難になる。
EU議長国チェコのラクシャン内相は声明で「ビザ円滑化協定は、価値観を共有する信頼できるパートナー国の市民がEU域内に渡航しやすくするためのものだ。ロシアは民間人に対する無差別攻撃を含む不当な戦争によって信頼関係を壊し、国際社会の基本的な価値を踏みにじった。今回の決定はロシアの行動が招いた結果であり、ウクライナに対するEUの揺るぎないコミットメントの表れだ」と強調した。
閣僚理の決定を受け、欧州委は同日、ロシア人によるビザ申請の取り扱いに関する指針を発表した。円滑化協定の停止に伴い、EU各国の領事館が共通の基準に沿ってビザ発給の手続きを厳格化するためのもの。それによると、領事館は◇渡航目的が観光など必要不可欠なものでない場合、審査の優先順位を下げることができるほか、徹底した審査のため、申請から発給可否決定までの期間を通常の15日から最大45日に延長することができる。また、審査にあたり追加書類の提出を求めることができ、特に公共の秩序や国際関係を脅かす可能性がある場合、標準的なチェックリストに記載のない書類の提出を求めることができる。
スキナス副委員長(欧州的生き方推進担当)は「現在の状況において、EU加盟国の在ロシア領事館は短期滞在ビザの審査を厳格化する必要があるが、今回の指針に基づき、透明性の高い共通のアプローチでこれを行うことができる」と指摘。そのうえで、ロシア人の実質的な受け入れ制限は観光客などを対象としたもので、EU市民の家族やジャーナリスト、反体制派など、必要不可欠な目的で渡航するロシア人の入国を拒むものではないと強調した。
EUはウクライナ侵攻に伴い、ロシアの航空機がEU領空に乗り入れるのを禁止したほか、プーチン大統領に近い新興財閥(オリガルヒ)や政権幹部などに対してEU域内への渡航を禁止している。しかし、欧州国境沿岸警備機関によると、侵攻開始から8月下旬までの半年に、陸路でEU域内に入ったロシア人は約100万人に上り、このうち約6割がフィンランドとエストニアに入国している。特に7月以降、ロシアに隣接する加盟国への入国者が増加していることから安全保障上のリスクが指摘されており、バルト3国やポーランド、フィンランドなどはロシア人観光客の全面的な受け入れ禁止を含むより厳しい措置を求めていた。