欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/9/19

EU情報

エネルギー企業の利益に上限、ピーク時の節電義務化も=欧州委

この記事の要約

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は14日、欧州議会で施政方針演説を行い、エネルギー価格高騰への対応策を発表した。価格高騰の恩恵を受けているエネルギー企業の利益に上限を設けて超過分を徴収したり、化石燃料を扱う事業者に利 […]

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は14日、欧州議会で施政方針演説を行い、エネルギー価格高騰への対応策を発表した。価格高騰の恩恵を受けているエネルギー企業の利益に上限を設けて超過分を徴収したり、化石燃料を扱う事業者に利益の一部還元を求め、総額1,400億ユーロ(約20兆円)を家計や企業への支援に充てることが柱。電力需要の削減に向け、加盟国にピーク時の節電を義務付けることも盛り込んだ。9月30日に開催予定の臨時エネルギー相理事会で欧州委の提案について検討する。

施政方針演説は欧州委が今後1年間に取り組む重要政策などについて説明するため、欧州委員長が毎年9月に行っているもの。フォンデアライエン氏はまず、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に触れ、「勇気と連帯があればプーチン(露大統領)は敗れ、欧州は勝利する」と強調。「欧州とウクライナの連帯は揺るぎない」と述べ、ロシアに対する制裁を継続する一方、ウクライナへの支援を強化する方針を表明した。

ロシアのウクライナ侵攻を起点とするエネルギー価格高騰への対応については、「戦争の恩恵で記録的な利益を得ることは間違っている」と指摘。価格高騰で予定外の収益を上げているエネルギー企業から利益の一部を徴収し、苦境に立つ家計や企業への支援に回す考えを示した。

EUでは電力料金が実質的にガス価格と連動しているため、天然ガス価格の高騰によって電力料金が記録的な高水準で推移している。このため、再生可能エネルギーや原子力などガス以外で発電する事業者は、発電コストが比較的低く抑えられているにもかかわらず、電力料金の高騰で大きな利益を得ている。

欧州委が同日発表した規則案によると、風力や太陽光、原子力など、天然ガスより低コストで発電する事業者の利益に1メガワット時当たり180ユーロの上限を設定し、加盟国が超過分を徴収する。また、石油やガス、石炭など化石燃料を扱う事業者を対象に、過去3年間の利益の平均と比較して20%を超える増加分について、少なくとも33%を「連帯負担金」として徴収する。欧州委の試算によると、発電事業者と化石燃料事業者からの徴収額はそれぞれ最大1,170億ユーロ、250億ユーロに上り、家計や企業への支援のほか、再生可能エネルギーへの投資などに充てられる。

また、電力需要の削減策として、ピーク時の電力消費量を少なくとも5%削減することを加盟国に義務付け、全体として10%の削減を目指す。欧州委は5%の削減義務を課すことで、冬場の4カ月に天然ガスの消費量を約12億立方メートル(ガス需要の4%に相当)減らすことができるとみている。

一方、欧州委は当初、ロシアからパイプラインで輸入する天然ガス価格に上限を設ける方針を打ち出していたが、加盟国の間で意見が割れていることから今回は見送り、協議を継続することとした。今月9日の臨時エネルギー相理では大半の加盟国が上限設定の必要があるとの認識で一致したものの、ロシア産に限定すれば事実上の対ロ制裁となるため、同国が欧州向けのガス供給を停止するといった懸念の声が上がった。現在は域内に輸入される全てのガスに上限を設ける案などが検討されている。