欧州連合(EU)の欧州委員会は19日、公衆衛生上の危機やテロなどの緊急時に域内で重要物資の供給が滞る事態を避けるための「単一市場緊急措置(SMEI)」を発表した。域内外で重大な自然災害やテロ、原子力災害などが発生した際、迅速に援助を提供することを目的とする「EU市民保護メカニズム」など、既存の危機対応策を補完するもので、緊急時に企業に対し、特定物資の生産を優先するよう義務付ける権限を欧州委に与えることなどが盛り込まれている。
EUでは新型コロナウイルス感染症の世界的流行に際し、当初はマスクや防護服、人工呼吸器などを加盟国がそれぞれ独自に確保しようとした結果、一部の国でこうした医療資源の調達が極めて困難になったうえ、中国の「マスク外交」に押された経緯がある。加盟国による一方的な措置は危機を悪化させ、EU市民と企業に深刻な打撃を与えるとの反省から、緊急時に欧州委と加盟国が連携して対応できるよう、バランスのとれた危機管理の枠組みを確立するのがSMEIの狙いだ。
具体的にはまず、単一市場で発生し得るリスクを特定し、「不測」「警戒」「緊急」の3段階で欧州委と加盟国が取るべき対応を調整する。不測モードでは、危機の発生に備えて準備体制を強化。単一市場に対する脅威が確認された場合は欧州委が警戒モードを発動する。さらにEU全体に広範な影響を及ぼす危機の場合は緊急モードを発動し、欧州委と加盟国で構成する諮問委員会が状況を判断して最適な対応策を勧告する。
警戒モードでは、加盟国は欧州委と連携して戦略的に重要な物資およびサービスのサプライチェーンを監視するとともに、戦略的備蓄の積み増しを進める。緊急モードが発動された場合、欧州委は生産ラインの拡張を促したり、認可手続きを迅速化するなどして、供給不足に陥らないよう加盟国に勧告することができる。また、警戒段階で確保した戦略的備蓄を合理的な方法で配分するよう、加盟国に指示することもできる。
さらに緊急時における最終手段として、特別な状況下であることを条件に、欧州委は特定の企業に対し、供給網の再編や、特に戦略的に重要な物資の生産を優先するよう義務付けたり、生産計画の変更を求めることができる。企業側は要請を拒否する場合は、それを正当化するだけの理由を説明しなければならない。