英スナク政権は17日、大規模な増税と歳出削減を柱とする財政再建計画を発表した。トラス前政権が打ち出した大型減税策が市場の混乱を招き、わずか1カ月半で退陣する事態を招いたことを踏まえ、財政引き締めに転換した。景気の下支えよりインフレ抑止を優先し、年換算で約550億ポンド(約9兆円)の収支改善を図る。
ハント財務相が発表した中期財政計画によると、好業績の企業や富裕層への負担増で2027年までに約250億ポンドの増税を見込む一方、光熱費抑制のための支援策の見直しなどを通じ、約300億ポンドの歳出削減を目指す。
増税策では資源価格の高騰で巨額の利益を得ているエネルギー関連企業への課税を強化する。英政府は現在、一時的措置として石油・ガス会社の利益に追加で25%を課税しているが、さらに10%引き上げる。発電事業者も増税の対象とする。所得税に関しては、最高税率(45%)が適用される年収水準を現在の15万ポンドから12万5,140ポンドに引き下げ、対象を拡大する。
歳出削減については企業と家計向けの光熱費補助策を来春から縮小するほか、途上国向けの対外援助なども見直す。
ハント氏は下院で演説し、「英経済はすでに景気後退に入った」と発言。23年の実質経済成長率がマイナス1.4%になるとの予測を示した。そのうえで「財源の裏付けのない減税や支出にはリスクがある」と増税の意義を強調し、「財政を立て直してインフレを抑制することが先決だ」と表明した。
トラス前政権は物価高騰のあおりで減速する景気を下支えするため、450億ポンド規模の大型減税と、半年で600億ポンドの家庭および企業向けエネルギー対策を打ち出した。しかし、財源確保に向けた具体策が示されなかったため、財政悪化の懸念が強まり、通貨ポンド、国際、株価が急落。その後、経済対策の主要部分を撤回し、市場の混乱を招いた責任が問われて退陣に追い込まれた。スナク政権はこうした経緯から、インフレ抑制や財政健全化を優先する政策を慎重に検討していた。
ただ、英統計局が16日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比11.1%上昇し、伸び率は9月から1.0ポイント拡大して、1981年10月以来、41年ぶりの高水準を記録した。電気、ガス、水道、住宅が26.6%の上昇となったほか、食料品・非アルコール飲料も16.2%の上昇を記録。さらにアルコール飲料、たばこ、通信など幅広い品目で物価の上昇が続いている。変動の大きいエネルギーや食品などを除いた上昇率は前月並みの6.5%と、伸び率は高止まりしている。高インフレで個人消費にブレーキがかかり、22年7~9月の実質成長率は前期比マイナス0.2%と、6期ぶりのマイナス成長となり、景気悪化の懸念が高まっている。
こうしたなか、英国では賃金上昇を求めるストライキが頻発している。今月10日にはロンドンで地下鉄職員が大規模なストを実施したほか、看護師の組合も年内に全国規模のストを計画している。