EUは24日開いた理事のエネルギー相理事会でエネルギー価格の高騰を抑えるための緊急対策について協議し、天然ガスの共同購入や、液化天然ガス(LNG)に関する新たな価格指標の開発、緊急時における加盟国間のガス供給の融通などを盛り込んだ規則案の内容で基本合意した。ただ、欧州委員会が新たに提案した天然ガスの価格に上限を設ける「市場修正メカニズム」の導入に関する規則案については加盟国の意見が分かれて合意できず、包括的な緊急対策案についても採択を見送った。12月13日に予定される次回会合で両法案について再び議論する。
エネルギー価格高騰への緊急対策に関する規則案は、10月20~21日のEU首脳会議でも大筋合意していた。天然ガスの共同購入は、来冬の供給確保に向け、加盟国に目標とするガス備蓄の少なくとも15%(EU全体で約135億立方メートル)相当を共同購入で調達するよう義務付ける内容。加盟国間の獲得競争による価格上昇を防ぐと同時に、価格交渉力を高める狙いがある。
ガス価格の指標に関しては、LNGを含めた欧州ガス市場の状況をより正確に把握できるよう、エネルギー規制機関間協力機構(ACER)に対し、欧州における天然ガス価格の指標となっているオランダTTFを補完する新たなLNGの価格指標を開発し、2023年3月までに運用を開始するよう求める。
また、EU域内でガス不足が発生した場合に加盟国間でガス供給を融通する「結束メカニズム」を強化し、EU全体、あるいは複数の加盟国にまたがる地域レベルで緊急事態が発生した場合、閣僚理が各国にガス供給の割当てを決定できる仕組みを導入する。また、不足時には加盟国の裁量で、重要性が低い用途(例えば屋外暖房や個人宅の温水プールなど)へのガス供給を減らすことができるようにする。
一方、欧州委が22日に導入を提案した市場修正メカニズムは、ガス価格の急騰を抑えるため、一時的に上限を設定する緊急措置。オランダTTFが2週間にわたって1メガワット時(MWh)当たり275ユーロを上回り、かつ10営業日連続で世界のLNG価格より58ユーロ以上高い状態が続いた場合に発動される。
欧州の天然ガス価格は今年8月のピーク時に340ユーロ/MWhを記録したが、現在のところTTF価格は130ユーロ/MWh前後で推移している。このため上限設定を求めていたベルギー、ポーランド、イタリア、ギリシャなどは上限価格が高すぎて実効性に乏しいと欧州委の提案に反対を表明。一方、ドイツ、オランダ、スウェーデン、フィンランドなどは価格が抑えられることでガス消費を減らすインセンティブが失われると主張し、上限設定に反対している。
今回のエネルギー相理ではこのほか、ロシア産石油の価格に上限を設ける措置についても協議された。主要7カ国(G7)は価格上限を1バレル当たり65~70ドルに設定する方向で検討しているとされるが、ロイター通信によると、会合では少なくとも6カ国がこの水準に反対したもよう。具体的にはポーランドが上限を30ドルに設定することを提案し、リトアニアとエストニアがこれを支持したのに対し、ギリシャ、キプロス、マルタからはG7の設定が低すぎるとの意見が出たという。加盟国は25日に再協議する予定だったが、調整のめどが立たないため週明け以降に延期された。