EU加盟国と欧州議会は12月18日、EU排出量取引制度(EU-ETS)の改正案で基本合意した。2050年までにEUが世界に先駆けて気候中立を実現するため、「欧州グリーンディール」の柱の1つであるEU-ETSを拡充する。欧州議会と閣僚理の正式な承認を経て、制度改正のための新指令が施行される。
EUは気候中立の実現に向け、中間点の30年までに域内の温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減する目標を掲げている。欧州委は21年7月、この中間目標を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、EU-ETS改正のための指令案を発表した。対象セクターの拡大や排出上限の削減ペースの引き上げ、無償排出枠の段階的削減などを柱とする内容で、数値目標などをめぐり欧州議会と閣僚理の間で協議が続いていた。
合意された改正案によると、30年までに対象セクターにおける温室効果ガス排出量をEU-ETSの運用がスタートした05年比で62%削減する。欧州委案の61%に対し、欧州議会は63%削減を主張していたが、最終的に現行の削減目標(43%)から19ポイント引き上げることで合意が成立した。排出上限に関しては、24年に二酸化炭素(CO2)換算で9,000万トン分、26年に同2,700万トン分の排出枠を削減したうえで、毎年の削減率を現行の2.2%から24~27年は4.3%、28~30年は4.4%に引き上げる。
対象セクターについては新たに海運を加え、CO2排出量の監視・報告・認証を義務付ける「EU-MRV規則」の対象となっている総トン数5,000トンを超える大型船舶に対し、24年から段階的にEU-ETSを適用する。初年度は検証済み排出量の40%、25年は70%、26年以降は100%が適用の対象となる。5,000トン以下の船舶については25年からMRV規則の対象としたうえで、26年にEU-ETSを適用するか改めて検討する。
また、EUが気候変動対策を強化する中で、域内の企業が規制の緩い域外の第三国に生産拠点を移すといった「カーボンリーケージ」を防ぐため、鉄鋼・セメント・石油精製など特定の産業部門に設定している無償排出枠に関しては、26年から段階的に削減し、34年までに全廃する。削減率は26年の2.5%から27年は5%、28年は10%といった具合に加速度的に拡大し、33年には86%まで引き上げたうえで、34年以降は排出枠をゼロとする。欧州委案では35年までの廃止となっていたが、これを1年前倒しする。
なお、無償排出枠の削減と連動する形で導入される「炭素国境調整措置(CBAM)」については、欧州議会と閣僚理が12月13日に設置規則案の内容で合意済み。EU-ETS改正案に関する今回の合意に基づき、無償排出枠の段階的削減に合わせて、26年から気候変動対策が不十分な国からの輸入品に事実上の関税をかけるCBAMの導入を進め、無償排出枠を全廃する34年にCBAMへの置き換えを完了する。
一方、道路輸送や暖房に化石燃料を使用する住宅などの建物を対象に、既存のETSとは別に新たな排出量取引制度(ETS-2)を立ち上げる。欧州委は26年1月の創設を提案していたが、エネルギー価格高騰の影響を考慮して1年先送りし、価格高騰が続く場合はさらに1年送らせて28年1月とすることも可能とした。
さらに道路輸送や建物を排出量取引の対象とすることで、ガソリンをはじめとする燃料価格の上昇につながる事態を想定し、脆弱な家庭や零細企業などを支援するための「社会気候基金」を創設する。最大650億ユーロのEU予算と加盟国からの拠出(全体の25%程度)を財源とし、断熱材やヒートポンプなど建物のエネルギー効率改善のための改装費用や、ゼロエミッション車や低排出ガス車の導入支援のほか、より直接的な生活支援を提供する。