インド鉄鋼大手タタ・スチールは8日、英国事業の売却交渉を凍結し、独ティッセン・クルップをはじめとする同業大手との提携を目指す方針を明らかにした。先の国民投票で英国の欧州連合(EU)離脱が決定したことで英国事業の先行き不透明感が増し、買収意欲を示していた複数の企業が交渉から撤退したため、同事業の売却を断念する。今後は好調なオランダ事業を柱とする欧州大陸の事業と合わせて同業との提携を模索し、欧州事業全体の存続を図る予定。
タタは声明で「EU離脱に伴う不確実性や、年金基金の扱いをめぐる英政府との協議を踏まえて英国事業の売却計画を見直した結果、ティッセン・クルップを含む同業大手との提携交渉に入った」と説明している。ただ、特殊鋼など一部の事業については別途、売却の可能性を探る方針を示しており、英鉄鋼商社のリバティ・ハウス・グループが複数事業の取得に向けて交渉を開始しているもようだ。
鉄鋼製品の世界的な供給過剰や安価な中国製品の大量流入を背景に、タタは3月末、赤字経営が続く英国事業の売却計画を決定。売却対象にはウェールズ南東部にある英最大の製鉄所ポート・タルボット工場などが含まれ、リバティやインドのJSWスチールなど7社が関心を示していた。関係者によると、英国のEU離脱決定を受け、同国で事業を継続するうえでの先行き懸念が高まったとして、売却先候補のうち少なくとも4社が交渉から撤退したとされる。
タタは当初、英国事業の売却後、欧州大陸の事業をティッセンの欧州鉄鋼事業と統合する方向で検討を進めていた。しかし、EU離脱を受けた方針転換で、1日当たり100万ポンドの損失を出しているとされる英国事業も統合の対象に含まれることになり、ティッセンとの交渉も先行きは不透明とされる。