ドイツ技術者協会(VDI)の委託を受けてフラウンホーファー・システム・イノベーション研究所(ISI)とカールスルーエ・技術・経済単科大学が実施した調査で、デジタル技術の導入がドイツへの生産回帰につながっているとの結果が得られた。
予想モデルを使用した分析によると、デジタル化が進んでいる企業では国内回帰の可能性が約5%となり、デジタル化が後れている企業(約0.5%)に比べ10倍高かった。
理由としては、◇デジタル技術により国内製造拠点の自動化および生産性が高まり、国外拠点における低い労働コストの魅力が弱まる◇デジタル技術により、柔軟性や個別需要への対応力が高まり、欧州の顧客に近い拠点で生産する魅力が高まる――の2点を挙げている。
■ 生産の国内回帰、従来のEU加盟国で増加
同調査によると、2013~2015年半ばにおけるドイツ製造業の国外移管は9%と低く、これは2009年からほぼ同水準で推移している。一方、同時期におけるドイツへの生産能力の回帰は3%とやや増加した。VDIのラルフ・アッペル専務理事は、全体の3%は少なく見えるが、ドイツ製造業の年500~550件の国内回帰を意味する、と説明する。
国内回帰で最も多いのは、西欧の従来のEU加盟国(EU15)からで全体の32%を占めた。2009年と比べると23パーセントポイント拡大している。これに対し、2004年以降に欧州連合(EU)に加盟した中東欧の13カ国(EU13)からの回帰は、かつては約50%を占めていたが、今回の調査では約10%にとどまった。ドイツ企業がEU13における品質、柔軟性、コーディネーションなどで経験を積み、要領を得たと見られている。北米からの回帰は全体の16%だった。なお、アッペル専務理事は、同調査は2015年末に実施したため、その後の米トランプ大統領の産業・貿易政策や英国の欧州連合(EU)離脱といった政治的な影響は考慮されていないとし、米ドル上昇による為替相場の変化が影響した可能性はあるとの見方を示した。
国内回帰の主な理由は、柔軟性と出荷能力の損失、品質問題で、企業の半数以上がこれらの問題を挙げている。また、約4分の1は、国外生産拠点のコーディネーションおよびサポートの手間を過少評価していた、と回答した。
また、国外移転の候補としては、2004年以降に欧州連合(EU)に加盟した中東欧の13カ国(EU13)が最も多く(50%以上)、次いで中国(約30%)、他のアジア諸国(約20%)が多かった。