欧州委員会は12月19日、英国が欧州連合(EU)との合意がないまま離脱する事態に備えた緊急対応策を発表した。英議会が離脱協定案を承認せず、合意なしの無秩序離脱となった場合、金融サービスや運輸などの重要分野で混乱回避のための暫定的措置を講じ、市民生活や企業活動への影響を最小限に抑える。
英国が「合意なき離脱」を迎えた場合、市場アクセスや通商面で現状を維持しながら円滑に離脱を進めるための「移行期間」が設けられず、英・EU間の金融取引や航空サービスなどの分野で混乱が生じる恐れがある。欧州委はこうした事態に備え、14項目の暫定的措置を盛り込んだ法案をまとめた。3月29日の離脱までに法制化して一連の措置を確実に実行できるよう、欧州議会と閣僚理事会に対して速やかな承認を求めている。
金融サービスではデリバティブ(金融派生商品)取引をめぐる対応が最大の焦点となる。企業が相場変動のリスク回避などに利用しているデリバティブ取引では、欧州における中央清算機関としてロンドン証券取引所(LSE)グループのLCHクリアネットが圧倒的なシェアを握っている。合意なき離脱となった場合、現行ルールではEU内に拠点を置く金融機関がLCHなど英国の清算機関を利用できなくなり、デリバティブ取引の決済処理が滞って市場に深刻な影響が及ぶ恐れがある。
欧州委が提案した暫定的措置は、「同等性評価」に基づき、離脱後も1年間は英清算機関にEU内の金融機関へのサービス提供を認めるという内容。証券決済を行う英国の証券集中保管機関に関しても、離脱から2年間はEUの顧客向けに業務を継続できるようにする。
運輸部門では、合意なき離脱によって英国の航空会社がEU域内で有効な営業許可を失い、EU各地と英国を結ぶ路線に深刻な影響が及ぶ恐れがある。こうした事態を避けるための一時的な措置として、離脱後1年間は英国発の旅客機にEU域内への飛行や着陸を認める。
通商面では英国からの物品に関税を課し、食肉などの検疫も実施する。一方、二重用途物品の輸出管理に関連して、個別に輸出許可を取得せずに輸出が認められる一般的・包括的許可の対象国に英国を加え、離脱に伴う混乱を和らげる。
■ 英政府も対策加速
英政府は12月18日の閣議でEU離脱について協議し、合意なき離脱に備え対策を加速させ、企業にも対応を促す方針を確認した。下院での採決で離脱案が承認されるか不透明な中、引き続き合意形成を目指しながら最悪の事態に備えた対応も並行して進める。
バークレイEU離脱担当相は閣議後の会見で「EUとの合意を実現させることが最優先だ」と強調。そのうえで「責任ある政府として、合意のない離脱への準備も強化すべき局面にある」と指摘した。
政府は緊急事態に備え、英軍から3,500人を動員して各省庁の業務を支援するほか国境管理や治安維持を強化するため約20億ポンドを担当部署に割り当てる計画を承認した。ロイター通信によると、予算配分の内訳は内務省が4億8,000万ポンド、通関業務の増加に備えて3,000人規模の増員を予定している税関当局が3億7,500万ポンドなどとなっている。
一方、政府は近く合意なき離脱となった場合の注意点などをまとめた助言集を作成し、インターネット上で公開するとともに、影響を受ける可能性が高い企業にメールで通知する。そのうえで各企業や業界団体が独自に準備している対応策を必要に応じて実行するよう要請する。