英政府は20日、欧州連合(EU)からの離脱に際して合意した英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理問題について、通関手続きの具体案を公表した。特別な通関施設は設けないで最小限のチェックを行うという曖昧な内容で、離脱後も北アイルランドにEUの関税ルールを厳格に適用することを求めるEU側の反発が予想される。
EUと英国の離脱交渉では、英国にとってEUと唯一、地続きでつながる英領北アイルランドとアイルランドの国境管理問題が大きな焦点のひとつとなっていた。北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づき、離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けるのを避け、物流やヒトの往来が滞らないようにすることで一致したものの、それをどのような仕組みで実現するかが難しいためだ。
EUと英国が2019年10月に合意した離脱協定案では、北アイルランドを含む英国全体は2020年末が期限となっている移行期間の終了後にEUの関税同盟から離脱する。しかし、北アイルランドに関しては英国の関税区となると同時に、工業製品と農産品についてはEUの関税ルールも適用され、実施的にEU単一市場と関税同盟に残ることになった。これによって税関検査は北アイルランドとアイルランドの間で行われず、和平合意の精神に沿って厳格な国境管理が復活するのを避けることができる。
ただ、同制度の仕組みは複雑で、通関手続き上の国境はアイルランド島と英本土にはさまれたアイリッシュ海に引かれ、英本土から北アイルランドに流入する物品については、EUの関税は適用されないが、北アイルランド経由でアイルランドなどEUに輸出する目的で入ってきたものは課税される。
この課税を物理的な国境を設けないという条件で、どのように実施するかが決まっていなかった。英国のゴーブ内閣府担当相が発表した案は、北アイルランドとアイルランドの国境に通関施設を設けることはせず、農産物などの権益を行うため北アイルランドの港湾に設置されている施設で「最小限の」通関検査を行うというもの。具体案とは程遠い内容だ。しかも、ジョンソン首相が12月に北アイルランドの経済界に対して、税関申告は一切不要だと宣言したこととも食い違う。
EU側は北アイルランドが単一市場と関税同盟にとどまるのであれば、EUの関税ルールが適用され、英本土から北アイルランドを経由してEUに輸出される製品には、域内に流入する前に適正に課税しなければならないと主張しているだけに、抜け穴が生じかねない同案を受け入れない可能性が高い。アイルランドのコーヴニー副首相兼外務・貿易相は20日、「物理的な(通関)インフラなしで、どのように北アイルランドがEUの関税ルールに従うことができるのか、EU側は多くの疑問を持つだろう」と述べた。
EUと英国は自由貿易協定(FTA)など将来の関係の構築に向けた交渉を行っているが、FTAではEU側が求める公平な競争環境の確保をめぐって対立が続いており、手詰まりの状態にある。FTAに関連する北アイルランドの国境管理問題でも衝突すれば、早期の妥結が一層難しくなるのは避けられない。