北アの通商巡る取り決め、英が一方的破棄へ法案準備

英政府は17日、欧州連合(EU)と締結した離脱協定のうち、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの一部を一方的に破棄する法案を提出すると発表した。同ルールを定めた「北アイルランド議定書」の規定を改正し、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを不要とする。これに対してEU側は猛反発しており、英が強行した場合は制裁に乗り出す方針だ。

北アイルランド議定書は、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにするのが目的。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにする。その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となった。

しかし、英政府は同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを2021年7月に要求。EUの欧州委員会は10月、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを大幅に緩和するという譲歩案を提示したが、英国側は不服とし、緩和だけでなく通関・検疫を不要とすることを求めている。北アイルランドの通商ルールをめぐる紛争を欧州司法裁判所(ECJ)の管轄とするルールの撤廃も目指す。

英国で対EU交渉を担うトラス外相は12日、EUの交渉姿勢に柔軟性がないと批判し、EUの方針が変わらなければ英政府が議定書の通関規制に関する取り決めを一方的に破棄することを辞さない構えを示していた。同外相は17日に議会で、議定書の内容を変更するための法案を数週間以内に発表する意向を表明し、取り決めの一方的破棄が脅しでなく、現実的な選択肢となっていることを強調した。

トラス外相はEUとの協議を通じた同問題の解決を優先するが、交渉が決裂した場合の保険として法案を準備しておくとしている。しかし、EU側は欧州委員会のシェフチョビチ副委員長が同日発表した声明で、一方的な変更は国際合意違反として反発。英国が法制化を進めれば「あらゆる手段で対応する」と述べ、制裁を辞さない構えを示した。

上部へスクロール