欧州委員会は6月30日、ニュージーランド(NZ)との自由貿易協定(FTA)締結交渉が妥結したと発表した。関税の引き下げや投資の自由化に加え、自由なデータ流通や電子商取引の促進など幅広い分野を網羅した内容で、労働者の権利や気候変動など環境保護に関する条項も盛り込まれている。発効には欧州議会と加盟国の承認が必要で、批准手続きには1年半~2年程度かかる可能性がある。
フォンデアライエン欧州委員長とNZのアーダーン首相がブリュッセルで会談し、交渉妥結を発表した。フォンデアライエン氏は「ニュージーランドはインド太平洋地域における欧州連合(EU)の重要なパートナーだ。NZとの貿易協定は双方の企業、農業従事者、消費者に利益をもたらす」と強調した。ドムブロフスキス副委員長(通商担当)は「われわれは新型コロナウイルス禍とロシアのウクライナ侵攻という2つの衝撃的な出来事から立ち直ろうとしており、新たな経済的機会の創出が不可欠だ」と指摘。NZとの協定は「地政学的なシグナル」を送ることになり、価値観を共有する国との結束を示すと同時に、サプライチェーンの強化にもつながると述べた。
EUとNZは2018年にFTA交渉を開始した。EUの統計によると、EUとNZのモノの貿易額は21年に約78億ユーロ(約1兆1,000億円)、サービス分野は20年に37億ユーロ。NZにとってEUは中国、オーストラリアに次ぐ3番目の貿易相手で、全体の11.5%を占める。NZの主な輸出品は農産品で、EUからは工業製品が中心となっている。
欧州委によると、FTAが発効すれば、EU・NZ間の貿易は最大30%拡大し、EUの年間輸出額は最大45億ユーロ増加する見通し。また、EU域内の企業が負担する関税コストは初年度から年間1億4,000万ユーロ削減されるという。
一方、EUが2011年以降に締結した通商協定には、国際労働機関(ILO)が定める労働基準や、気候変動や生物多様性など環境分野の国際条約の履行を義務付ける「貿易と持続可能な開発に関する章(TSD章)」が含まれているが、NZとの協定には相手国に深刻な義務違反があった場合、経済的な制裁を科すことができるとする規定を盛り込んだ。
これは欧州委が6月に発表したTSD章についての新たな方針に基づき、初めて導入される紛争解決のアプローチで、ILOの基本原則や気候変動に関するパリ協定などの履行をより確実にすることを目的としている。新協定では行動計画の策定など、是正に向けた当事者間の協力関係を引き続き重視しつつ、改善が見られない場合、「最後の手段」として一時的に関税を引き上げるなどの措置を講じることが可能になる。