欧州委員会は7月20日、ロシアからの天然ガス供給が大幅に減少、または途絶した場合に備えた緊急対策案を発表した。エネルギー需要が増える冬場に供給不足となる事態を防ぐため、調達先の多様化や再生可能エネルギーの導入促進に加え、加盟国に対し2023年初までにガス消費の15%削減を求める内容。当初は自主的な取り組みとするが、供給状態が悪化した場合は欧州委の権限で強制力のある措置をとれるようにする。26日の緊急エネルギー相会合で欧州の提案について議論する。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは欧州連合(EU)による制裁に対抗して欧州へのガス供給を減らしている。EUは21年にロシアから全体の約4割にあたる1億550億立方メートルの天然ガスを輸入したが、欧州委によると、6月時点でロシアからのガス供給は過去5年間の平均と比べて3割以下に縮小した。21日には定期点検で10日間にわたり供給が完全に止まっていたロシアとドイツをつなぐパイプライン「ノルドストリーム」が稼働を再開したが、供給量は従来計画の40%程度にとどまり、今後の見通しも不透明だ。
欧州委は「欧州ガス需要削減計画」と名付けられた対策案で、加盟国に対し8月~23年3月にかけて、過去5年間の同時期平均と比べて天然ガス消費量を15%削減するよう求めた。加盟国の自主的な取り組みにもかかわらず需給がひっ迫した場合、欧州委はEUレベルで「警報」を発動し、加盟国にガス消費の15%削減を義務付けることができる。
一方、一般家庭や学校、病院などは「保護された消費者」として安定的なエネルギー供給が保障されるため、産業界がガス需要削減策の主な対象となる。このため市場原理に基づき、企業がガス消費を減らすインセンティブを設ける。具体的には削減分をオークションで売却できる仕組みや、ガスから再生可能エネルギーなどに転換するための補助金制度の導入などを提案している。また、再生エネや原子力への転換を促すとともに、石炭の一時的な利用拡大も容認する。
EUはエネルギー分野における「脱ロシア依存」を急いでおり、調達先の多様化を進めている。米国とは3月、22年に150億立法メートル、その後は30年まで少なくとも年間500億立法メートルの液化天然ガス(LNG)の追加供給を受けることで合意した。6月にはエジプト経由でイスラエル産天然ガスを輸入する覚書を両国と締結。ノルウェーとも天然ガスの追加供給に向けた協力関係の強化で合意した。さらに欧州委は18日、アゼルバイジャンとの間で27年までに年間200億立法メートルの天然ガスを輸入する覚書を締結した。
欧州委のフォンデアライエン委員長は記者会見で「ロシアはわれわれを脅迫し、天然ガスを兵器として使っている」と批判。冬に向けたロシアがガス供給を完全に止めた場合に備え、「EUとしてエネルギー安全保障への取り組みを強化する必要がある」と訴えた。