欧州連合(EU)の欧州委員会は7月22日、英政府がEUと締結した離脱協定のうち、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの一部を一方的に破棄しようとしていることを巡り、英国に対する法的措置に着手したと発表した。
英政府は離脱協定の「北アイルランド議定書」の規定を改正し、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを不要とすることなどを目指している。北アイルランド議定書は、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにするのが目的。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにするために合意したもの。その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となった。
しかし、英政府は同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを2021年7月に要求。EUの欧州委員会は10月、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを大幅に緩和するという譲歩案を提示したが、英国側は不服とし、緩和だけでなく通関・検疫を不要とすることを求めている。北アイルランドの通商ルールをめぐる紛争を欧州司法裁判所(ECJ)の管轄とするルールの撤廃も目指す。
英政府は6月に関連法案を議会に提出。下院で審議が行われている。欧州委は6月15日、英政府が北アイルランドに本土から入る食品などの通関・検疫規制の猶予期間を一方的に延長した際に開始し、その後に凍結した手続きを再開するほか、北アイルランドで必要となる通関のインフラと人員の不足、貿易に関する十分なデータをEUに提供することを怠っていることに対して法的措置を講じると発表していた。新たに◇英本土から北アイルランドに流入した物品がEUに密輸されるのを防ぐための監視措置を怠っている◇北アイルランドでアルコール飲料などの物品税に関するEUのルールが適用されていない――など4点を問題視し、法的措置に着手した。英政府の対応次第で、欧州司法裁判所に提訴することになる。