2011/6/6

産業・貿易

EU共通特許で伊など異議申し立て、先行導入の無効化を要求

この記事の要約

EU加盟国のうち25カ国が域内共通の単一特許制度を導入する計画をめぐり、同構想に反対するイタリアとスペインは5月30日、欧州司法裁判所に異議を申し立てた。両国は、重要案件にもかかわらず全会一致の承認がないままEU共通特許 […]

EU加盟国のうち25カ国が域内共通の単一特許制度を導入する計画をめぐり、同構想に反対するイタリアとスペインは5月30日、欧州司法裁判所に異議を申し立てた。両国は、重要案件にもかかわらず全会一致の承認がないままEU共通特許を創設することは、EUの基本政策である単一市場の理念に反すると主張。賛同する国だけで単一特許制度を先行導入することを承認した今年3月の競争担当相理事会の決定を無効とするよう求めている。

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現在EUで特許を取得する仕組みとしては、各国で出願して個別に審査を受ける方法と、欧州特許庁(EPO)に出願して「欧州特許」を取得する方法がある。ただ、欧州特許も最終的な認可権限は各国の特許庁が握っており、特許を取得したい国の制度に合わせてそれぞれ書類を用意しなければならない。とくに出願資料を各国の言語に翻訳する必要があり、これが大きなコスト負担を強いている。

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新たな共通特許制度では英語、仏語、独語のうち1つの言語でEPOに出願し、認可されれば域内全域で同じ効力を持つ特許を取得することができるため、複数の国で特許を取得する際の出願手続きが大幅に簡素化され、翻訳などのコストを大幅に節減できる。このため産業界は早い段階から概ね同構想を支持していたが、自国言語が選択肢から除外されることに難色を示すイタリアとスペインの強い反対で調整が難航。紆余曲折の末、加盟国は特定分野で9カ国以上の「有志」による先行統合を認める「強化協力」の仕組みを活用し、賛同国だけでEU共通特許を導入することで合意した。

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イタリア外務省は声明で、現在の形でEU共通特許が先行導入された場合「市場に歪みが生じて国内の企業が不利益を受けることになる」と指摘。同国やスペインの反対を押し切って単一特許制度を導入することは「単一市場の理念に反する」と主張し、「加盟国に平等の権利を保障し、言語の多様性を尊重するEUの精神を守る」ため、欧州司法裁に法的判断を仰いだと説明している。

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一方、スペインのガリードEU担当相は「強化協力に基づく閣僚理事会の決定はスペインを新たな特許制度から排除するものだ」と強調。「EUの特許制度が言語上の差別を土台とするものであってはならない。スペイン語は欧州における主要言語であり、言語上の理由で自国の企業や発明家が不利益を受ける事態は容認できない」と述べた。

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今回の動きを受け、EU議長国ハンガリーは今月27日に競争担当相による会合を開いて対応策を協議する方針を明らかにした。一方、欧州委員会のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)は「共通特許の枠組みに参加するかどうかは加盟国が判断することだ。ただし、強化協力に基づく先行導入の手続きは差別的なものではなく、イタリアとスペインの企業が不利益を受けることはないと確信している」とコメントした。

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