2011/9/5

産業・貿易

銀行資本めぐりIMFと対立、EU「資本増強の必要なし」

この記事の要約

欧州の銀行の資本水準をめぐり、国際通貨基金(IMF)とEU当局およびユーロ圏主要国の間で意見対立が表面化している。IMFはソブリン債リスクの上昇などにより、欧州の銀行が最大で総額2,000億ユーロの資本不足に陥る可能性が […]

欧州の銀行の資本水準をめぐり、国際通貨基金(IMF)とEU当局およびユーロ圏主要国の間で意見対立が表面化している。IMFはソブリン債リスクの上昇などにより、欧州の銀行が最大で総額2,000億ユーロの資本不足に陥る可能性があると試算しているが、欧州側はIMFの分析方法に問題があるなどと反論し、最新のストレステストの結果を引き合いに出して域内行の健全性を強調している。

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議論の引き金になったのは、IMFのラガルド専務理事が8月27日に米国で行った講演。専務理事は欧州の債務危機が他国に広がり、世界経済が景気後退に陥るリスクを回避するため、欧州の銀行は義務的に大規模な資本増強を行う必要があると指摘。銀行のバランスシートを強化することが「感染の連鎖を断ち切る鍵」になると述べ、自力での資本調達が困難な場合は各国政府が公的資金を注入して早急に資本増強を図るべきだとの認識を示した。

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一方、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、IMFは国際資本市場局(ICM)が半年ごとにまとめる国際金融安定性報告書(GFSR)の素案で、深刻な財政赤字に陥ったユーロ圏諸国の国債保有により、欧州の銀行では潜在的な損失が拡大していると指摘。ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリア、ベルギーの国債を保有する銀行の資本水準は欧州全体で最大2,000億ユーロ目減りすると試算している。

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欧州銀行監督機構(EBA)が7月に結果を公表した域内の主要91行を対象とするストレステストでは、資本不足で「不合格」となった銀行はスペインやギリシャなどの8行にとどまり、資本不足額は合計25億ユーロと試算された。欧州委員会の報道官はラガルドIMF専務理事の発言を受けて29日、「ストレステストの結果が示すように、欧州の銀行は1年前と比べて大幅に資本を増強している」と強調。資本不足に陥っている銀行は域内全体のごく一部にとどまっており、現時点で抜本的な措置を講じる必要はないとの認識を示した。さらにEBAも30日に声明を発表し、「先のストレステストによって大部分の銀行が資本ベースを強化しており、マクロ経済上の不利なシナリオにも耐え得ることが証明された」と説明。EU域内の銀行はソブリン債リスクを抱えているものの、緊急に大規模な資本増強を行う必要はないとの見解を表明した。

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一方、銀行の資本水準に関するIMFの試算に対しては、欧州中央銀行(ECB)やユーロ圏主要国から国債の時価評価の算定方法に問題があり、IMFの分析は偏っているといった批判が出ている。スペインのサルガド財務相はFT紙の取材に対し、IMFはドイツ国債の価格上昇といったプラス要因は考慮せず、潜在的な損失だけを見ていると指摘している。

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