2011/12/12

総合 –EUウオッチャー

財政規律強化へ新協定、26カ国参加へ=EU首脳会議

この記事の要約

EUは8、9日にブリュッセルで開いた首脳会議で、債務危機の再発防止に向けて、ユーロ圏を中心に新たな財政協定を結び、財政規律を強化することで合意した。また、足元の信用不安問題に対処するため、EU版のIMFと呼ばれる「欧州安 […]

EUは8、9日にブリュッセルで開いた首脳会議で、債務危機の再発防止に向けて、ユーロ圏を中心に新たな財政協定を結び、財政規律を強化することで合意した。また、足元の信用不安問題に対処するため、EU版のIMFと呼ばれる「欧州安定メカニズム(ESM)」の創設を予定より1年前倒しすることなども決めた。ただ、最大の焦点となっていた財政規律強化については、英国の反対によってEUの基本条約を改正する形には至らず、新財政協定も英国は参加しないことになり、信用不安克服に向けた一致団結を市場にアピールすることはできなかった。

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新財政協定は◇規律違反国に対して、ほぼ自動的に制裁を発動する◇各国は財政赤字を国内総生産(GDP)比0.5%以内に抑える財政均衡を憲法に明文化する◇各国は毎年の予算案を事前に欧州委員会に提出。欧州委は修正を指示する権限を持つ――を柱とする内容。ユーロ圏17カ国のほか、英国を除く非ユーロ圏の9カ国を合わせた26カ国が議会の承認を得た上で、来年3月までの調印を目指す。

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加盟国に財政赤字をGDP比3%以内に抑えることなどを義務付ける財政規律の強化は、規律違反に対する制裁を厳しく適用しないといった甘い体質がギリシャなどの放漫財政を招き、世界を揺るがすユーロ圏の債務危機を引き起こした反省を踏まえたもの。すでにEUは、規律違反国への制裁をスムーズに発動できるようにすることなどを盛り込んだルール改正を決めていたが、さらに踏み込んで新条約の形で規律順守を徹底する。

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加盟国、IMFに2千億ユーロ拠出

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一方、目先の信用不安対策としては、財政危機に直面するユーロ参加国に緊急金融支援を行う「欧州金融安定基金(EFSF)」に代わって創設される恒常的な支援基金「欧州安定メカニズム(ESM)」について、始動を当初予定の2013年6月から1年前倒しし、2012年7月とすることを決めた。融資枠は5,000億ユーロ。さらに、ユーロ圏の財政悪化国に対する国際通貨基金(IMF)の支援能力を強化するため、EU加盟国が最大2,000億ユーロをIMFに供給することも決めた。うち1,500億ユーロはユーロ圏が拠出する。

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ESMに関しては、銀行免許を与えることで、欧州中銀から資金を調達できるようにする案が浮上していたが、ドイツの反対で実現しなかった。基金の規模についても、5,000億ユーロでは不十分との声があったが、拡大は見送られた。また、ギリシャに対するEU、IMFの第2次支援に盛り込まれた条件のように、ESMが支援した国の国債を保有する民間投資家に債務の棒引きを求めることをドイツが提案していたが、議長総括では「ギリシャの場合は特例的」として、同案は採用されなかった。

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このほか信用不安対策では、EFSFの規模拡充、ユーロ圏17カ国が共同で債券を発行する「ユーロ共同債」構想も検討されているが、今回の首脳会議では決定を見送った。

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EFSFの規模拡充はすでに合意済みだが、詳細は決まっていない。EUは3月の首脳会議で詳細を詰める。

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新財政協定、合法性の問題も

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規律強化をめぐっては、ドイツとフランスがEUの憲法といえる基本条約(リスボン条約)を改正する形で実現し、全加盟国を厳しくしばることを提案していた。重債務国への支援拡大に消極的な欧州中央銀行(ECB)に、抜本的な規律強化によって方針転換を促す狙いもあった。しかし、英国のキャメロン首相が「国益を損なう」として基本条約改正に難色を示し、条件として一部のEU金融規制の英国への適用除外などを改正に盛り込むことを要求した。独仏などは受け入れ不可能な条件として、条約改正を断念。参加国が政府間協定を結ぶ方式での新条約締結に後退した。

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財政規律を強化するための新財政協定は、EUにとって財政統合に向けた画期的な出来事といえる。初日の首脳会議が終了した時点で参加見送りを表明していたスウェーデン、チェコ、ハンガリーが、独仏などの説得で方針を転換し、参加予定国も26カ国に達した。しかし、英国の離反で足並みの乱れが大きくクローズアップされ、信用不安問題をめぐるEUの対応力への不安が残る格好となった。主要国である英国抜きの新協定はしこりを残し、EUでの英国の孤立が深まる恐れもある。ファンロンパイ大統領(欧州理事会常任議長)は、「本格的な条約改正のチャンスを逸したのは残念だった」とコメント。仏サルコジ大統領はキャメロン首相を名指しで「とても受け入れられない条件を出してきた」と批判した。

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英国は伝統的にEU統合の深化に懐疑的で、ユーロ参加もあえて見送ってきた。欧州の金融センターであるシティを抱えているため、とくに金融主権の維持を重視しており、EUの金融規制強化に際して英国が障害となるのが茶飯事だ。まして財政統合は、EU最大の危機である信用不安問題を解決する一環とはいえ「論外」という立場で、キャメロン首相は記者団に「国益に反するため同意できなかった」と発言。さらに「ユーロに参加していないことをうれしく思う。今後も決してユーロに参加しないし、この種の主権を手放すつもりもない」と言い放った。

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基本条約改正を断念したことで、財政規律強化の合法性も揺らいでいる。新財政協定では、欧州委が各国の予算に介入し、欧州司法裁判所が規律違反への制裁などに関わることを想定しているが、基本条約の枠外にあり、全加盟国が加わらない協定の下で、EU機関が執行権を持つことができるかどうか微妙なためだ。ファンロンパイ大統領は「EU機関に関するユーロを幅広く解釈することで克服できる」としているが、英国が法的根拠について異議を唱えることを示唆しており、曲折が予想される。

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今回の首脳会議は、2年に及ぶ欧州債務危機の収束に向けた正念場として世界から注目されていた。しかし、財政規律をめぐる加盟国間の不和に加え、短期の信用不安対策が想定内にとどまったことで、市場では火消し効果は薄いとの見方が多いようだ。

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