2012/3/26

産業・貿易

国境を越えた派遣労働者の権利強化、欧州委が2法案発表

この記事の要約

欧州委員会は21日、EU加盟国から域内の他の国に一時的に派遣される労働者の権利保護を強化するための2つの法案を発表した。国境を越えて派遣される労働者の権利保護と域内におけるサービス提供の自由は、EU単一市場で表裏一体の関 […]

欧州委員会は21日、EU加盟国から域内の他の国に一時的に派遣される労働者の権利保護を強化するための2つの法案を発表した。国境を越えて派遣される労働者の権利保護と域内におけるサービス提供の自由は、EU単一市場で表裏一体の関係にあるが、最近の判例などをみるとサービス提供の自由が優先され、特に建設業などの分野で労働者の権利が尊重されていないケースが目立つ。欧州委はこうした現状を改善するため、労働者の権利に関する現行ルールを確実に実施するための具体策をまとめた「実施指令案」と、域内の他の国に派遣される労働者の団体行動権について規定した「単一市場における経済的自由に係る団体行動権の行使に関する規則案」を提案した。

\

欧州委によると、EU市場では年間に約100万人の労働者が一時的に域内の他の国に派遣されており、建設業が約4分の1を占めている。1996年の「サービス提供の枠組における労働者の海外派遣に関する指令」では、派遣元の企業は派遣した労働者に対し、受入国の法律が定める労働条件の基準を守らなければならないとしている。しかし、実際にはEU条約が規定するサービス提供の自由を根拠に、受入国の基準が適用されないケースも多く、とりわけ建設業界でこうした傾向がみられる。

\

欧州委が打ち出した「労働者の海外派遣に適用される規定の実施のための指令案」によると、たとえば他のEU加盟国の元請業者と下請契約を結んだ派遣元の建設業者が、派遣した労働者に対して受入国の最低基準以下の賃金しか支払っていない場合、新たに導入される「連帯責任」の原則に基づいて、元請業者が差額分を補填しなければならない。指令案にはこのほか、労働条件に関するルールを回避して国外からの安い労働力を活用する目的で、労働者の派遣元として登記された活動実態のないペーパーカンパニーに対する監視を強化することなどが盛り込まれている。

\

一方、団体行動権の行使に関する規則案によると、事業所設立およびサービス提供の自由と、国外に派遣された労働者のストライキを含む団体行動は、行使にあたって相互に尊重されなければならない。欧州委はラトビアのLaval社とスウェーデンの建設労働組合の労働争議をめぐる訴訟で、サービス提供の自由を優先する判決を下した欧州司法裁判所の判決(2008年12月)に触れ、2つの権利の間に「優先順位はない」と言明している。

\