2012/7/2

総合 –EUウオッチャー

EUが成長戦略・新債務危機対策で合意、信用不安打開へ成果

この記事の要約

EU加盟国は6月28、29日に開いた首脳会議で、総額1,200億ユーロの成長戦略「成長・雇用協定」や銀行監督の一元化、新たな債務危機対策で合意した。とくに債務危機対応では、EUの基金による各国の銀行への直接支援、国債購入 […]

EU加盟国は6月28、29日に開いた首脳会議で、総額1,200億ユーロの成長戦略「成長・雇用協定」や銀行監督の一元化、新たな債務危機対策で合意した。とくに債務危機対応では、EUの基金による各国の銀行への直接支援、国債購入を可能にするなど、柔軟に金融支援を行う枠組みを設けることを決定。市場は予想を上回る成果と評価しており、危機終息へ大きな一歩を踏み出した。

\

成長戦略は、ドイツとフランス、イタリア、スペインが22日の首脳会談で大枠合意し、今回の首脳会議で提案したもの。財政を健全化するための厳しい緊縮策で疲弊した国々の成長・雇用を支えるのが目的だ。EUの政策金融機関である欧州投資銀行(EIB)の資本金を100億ユーロ増強し、インフラ整備事業などへの融資能力を600億ユーロに引き上げる。また、EUの「構造基金」から未消化の550億ユーロを中小企業や若者の就労などへの支援に充てる。さらに、運輸、エネルギー、通信を中心とするインフラ整備を促進する仕組みとして、EIB の信用供与による45億ユーロの「プロジェクト債」を今夏に試験的に創設することも盛り込まれた。

\

同協定は首脳会議の初日に基本合意したが、債務危機に直面するイタリアと、同危機に加えて銀行救済に巨額の資金が必要となっているスペインが、これらの問題への短期的な対策の導入を求めて、採択を保留。これを受けて、同日夜に緊急のユーロ圏首脳会議が開催され、両国の要求に沿った追加対策を盛り込むことで合意にこぎつけた。

\

まずひとつは、債務危機に直面するユーロ参加国に対するEUの金融支援の新たな枠組みとして7月にも発足する「欧州安定メカニズム(ESM)」について、各国の銀行に直接、資本を注入できるようにする。これまでは各国政府を介して支援する仕組みとなっていたため、支援額は各国の債務として勘定される。同措置により、スペインは財政赤字が膨らむことなく、不良債権問題に悩む銀行を支援できることになる。

\

さらにユーロ圏は、ESMが重債務国の国債を発行時または流通市場で買い取ることができるようにすることで合意。これにより、国債の利回りが高騰しているスペイン、イタリアなどの資金調達を支援する。また、ESMおよび現行の危機国支援の枠組みである「欧州金融安定基金(EFSF)」による支援の条件を緩和し、財政赤字削減の目標を定め、その実行を約束すれば支援を実施することも決めた。財政再建に着実に取り組んでいる国は、これまでに支援を受けたギリシャなどと異なり、厳しい財政緊縮策を具体的にまとめなくても済むようになる。

\

このほか、ESMのスペイン支援について、他の債権者に優先して債務返済を受ける資格をESMに与える「優先債権者待遇」を撤廃することで合意した。支援対象の銀行が破たんした場合、他の債権者が債務処理でESMと同等の権利を認められるようにすることで、市場の不安を緩和する狙いがある。

\

これらの債務危機対策の詳細は、今月9日のユーロ圏財務相会合で検討する予定。

\