2012/10/29

産業・貿易

17年までの漁業補助金維持で合意、英・独などの反対押し切り

この記事の要約

EU加盟国は24日の漁業相理事会で、漁業の活性化と競争力強化を図るため2017年まで現行の補助金制度を維持することで基本合意した。漁業補助金をめぐっては、過剰漁獲を助長する漁船の近代化にその多くが費やされており、持続可能 […]

EU加盟国は24日の漁業相理事会で、漁業の活性化と競争力強化を図るため2017年まで現行の補助金制度を維持することで基本合意した。漁業補助金をめぐっては、過剰漁獲を助長する漁船の近代化にその多くが費やされており、持続可能な漁業を実現するための漁獲能力削減に向けた漁船の解体や減船などにかかる費用に充てられるケースはごく一部にすぎないとの批判がある。理事会では補助金の必要性を訴えるフランス、スペイン、ポルトガルなどと、過剰漁獲につながる船舶関係への補助金の廃止を求める英国、ドイツ、オランダ、スウェーデンの対立で調整が難航したが、最終的に漁業国が主張を通す形となった。

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環境保護団体などからは今回の決定に対して早くも批判の声が上がっている。グリーンピースは声明で「域内に拠点を置く漁船団の多くは持続可能な漁獲水準の2-3倍の漁獲能力を持っているにもかかわらず、EU漁業相は引き続き漁船の近代化に巨額の補助金を投入しようと考えている。EUは補助金を通じて過剰漁獲を支援しようとしている」と加盟国の対応を厳しく批判している。

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一方、欧州委員会は同日、大西洋と北海で捕獲される魚種のうち、47種で2013年の漁獲可能量(TAC)を削減または維持する一方、16種についてはTACを引き上げることを加盟国に提案した。EUでは国際海洋調査評議会(ICES)の勧告に基づいて、欧州委が毎年TACの原案をまとめ、加盟国の承認を経て魚種別に各国の漁獲割当量を決定している。欧州委によると、タラやカレイなどの一部魚種については資源量が高水準で安定しているとの科学的データが得られたため、TACの引き上げを提案した。

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欧州委によると、地中海で漁獲される水産資源の83%、大西洋でも63%で乱獲による個体数の減少が続いており、新たな対策を講じなければEU周辺海域で漁獲される136品種のうち、10年後の時点で健全性を維持できるのは8品種にとどまるとみられている。欧州委はこうした現状を踏まえ、昨年7月に環境・経済・社会面で持続可能な漁業の実現を目指したEU共通漁業政策(CFP)の改革案を発表。15年までにすべての魚種について、資源を減らすことなく漁獲量を最大化する「最大維持可能漁獲量(MSY)」の水準を確保するとの目標を掲げ、具体策の検討を進めている。

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EUでは利用可能な資源量に対して漁獲能力が慢性的に過剰な状態にあり、加盟国はCFPに基づいて漁船の数、大きさ、操業日数などを規制している。こうした操業規制や廃船などの経済的影響を和らげるために設けられた財政支援では、これまで漁船を減らすための措置に多額の補助金が拠出されてきたが、技術の進歩による漁業の効率性向上などにより、減船の効果が打ち消されているのが実情。欧州委は従来の方法では漁獲能力の削減は難しいとして、2014-20年を対象とする新たな財政支援の枠組みでは漁船のスクラップに対する補助金の拠出を打ち切るほか、漁船の新造や漁獲能力の向上につながる技術の導入も支援対象から除外する方針を打ち出している。しかし、フランスやスペインなど漁業国からの反発が根強く、調整は難航を極めている。

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