2012/11/19

環境・通信・その他

欧州委、9億トン分の排出枠入札延期を提案

この記事の要約

欧州委員会は14日、EU排出量取引制度(EU-ETS)における排出枠の需給不均衡を是正して排出権価格の下落に歯止めをかけるため、第3期間(2013-20年)の最初の3年間にオークション方式で有償配分する排出枠のうち、9億 […]

欧州委員会は14日、EU排出量取引制度(EU-ETS)における排出枠の需給不均衡を是正して排出権価格の下落に歯止めをかけるため、第3期間(2013-20年)の最初の3年間にオークション方式で有償配分する排出枠のうち、9億トン分の入札時期を16年以降に延期する方針を打ち出した。欧州委はまた、欧州炭素市場の現状をまとめた報告書を同日付で採択し、その中で長期的に排出枠の需給バランスを維持するための措置として、第3期間の総排出枠を削減するなど、EU-ETSの抜本的な改革に向けた6つのオプションを提示している。排出枠の入札延期に関しては、EU加盟国の代表で構成する気候変動委員会の承認を経て閣僚理事会と欧州議会で検討する。一方、EU-ETSの改革案に関しては、近く各方面からの意見募集を開始する。

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EU-ETSの第1期間(05-07年)では全体の95%、第2期間(08-12年)でも90%の排出枠がグランドファザリング方式によって対象施設に無償で割り当てられてきたが、第3期間以降は段階的にオークションによる有償割当への移行を進め(発電部門は原則として100%オークション)、27年までに全面移行することが決まっている。初年度の13年は総排出枠の60%が有償割当となるが、債務危機に伴う景気低迷で企業の生産活動が停滞し、排出枠に膨大な余剰が生じて排出権価格は1トン当たり7ユーロ前後と低水準で推移している。

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企業に環境投資を促すには少なくとも20ユーロ以上の排出権価格を維持する必要があるとされるが、市場ではEU-ETSが計画通りに運用された場合、排出枠の余剰分が20年時点で14億トン超に達し、少なくとも今後5年以内に排出権価格が1トン当たり15ユーロを超えることはないといった試算がある。このため、欧州委は排出権価格を下支えするための施策として、第3期間の最初の3年間は競売にかける排出枠を減らし、16年以降に削減分を含めて入札を実施する「バックローディング」と呼ばれる手法を用いて排出枠の需給を調整する構想を打ち出し、具体的にどの程度の排出枠を保留するかについて検討を進めていた。

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当初の計画では13-15年の3年間におよそ35億トン分の排出枠がオークションで有償配分されることになっていたが、欧州委はこのうち9億ドン分の入札を保留して16年以降に先送りすることを提案している。なお、第3期間全体では計画通り、およそ85億トン分の排出枠が競売にかけられる。

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一方、欧州委は長期的に排出枠の需給バランスを安定させるためには排出量取引の抜本的な制度改革が不可欠と指摘。具体策として◇2020年を達成期限とする温室効果ガスの削減目標を1990年比で現在の20%から30%に引き上げる◇第3期間の総排出枠を削減する◇年1.74%に設定している排出枠の削減幅を見直して温室効果ガスの排出削減を加速させる◇投機的な取引による排出権価格の乱高下を防ぐため、国際的な投機マネーへのアクセスを制限または禁止する◇排出権価格が急激に下落した場合は入札を見送って排出枠を積み立てるなど、排出権価格を安定させるための価格管理メカニズムを導入する――という6つの選択肢を提示している。

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