2013/6/24

総合 –EUウオッチャー

ESM銀行直接支援の枠組みで合意、破綻処理ルールは持ち越し

この記事の要約

ユーロ圏17カ国は20日に開いた財務相会合で、EUの金融安全網である「欧州安定メカニズム(ESM)」が経営危機に陥った圏内の銀行に資本を直接投入できるようにする制度の基本的な枠組みで合意した。一方、翌日のEU財務相理事会 […]

ユーロ圏17カ国は20日に開いた財務相会合で、EUの金融安全網である「欧州安定メカニズム(ESM)」が経営危機に陥った圏内の銀行に資本を直接投入できるようにする制度の基本的な枠組みで合意した。一方、翌日のEU財務相理事会では、域内銀行の破綻処理に関するルール統一について協議したが合意に至らず、26日に再協議することになった。

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ESMは債務危機が深刻化し、独自に資金調達できなくなったユーロ参加国に緊急融資を行ってきた「欧州金融安定基金(EFSF)」の後継機関として昨年10月に発足した常設の金融安全網。当初は資金繰りが悪化した銀行への支援を想定しておらず、スペイン、アイルランドなどの金融システムが危機に陥った際も政府に銀行救済に必要な資金を提供する形で支援を行った。

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しかし、同方式では対象国の債務が膨らみ、さらなる金融支援の要請を招くという悪循環に陥ることから、EUは昨年6月、域内の銀行監督を一元化することを条件に、ESMが銀行を直接支援することができるようにすることで合意していた。

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ユーロ圏財務相会合では、銀行への直接融資の場合には、国に融資する場合に比べデフォルト(債務不履行)のリスクが大きく、ESMの格付けが引き上げられて資金調達支援に悪影響を及ぼす恐れがあることから、ESMが備える融資能力5,000億ユーロのうち銀行への融資枠を600億ユーロに制限することで合意した。

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また、銀行への融資は、対象国に財政を大きく悪化させることなく銀行を救済する余力がない場合に限ると規定。また、銀行が事前に可能な限りの債務再編を行い、債権者にも最大限を負担させることを決めた。

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さらに、政府にも一定の負担を強いる。具体的には、対象銀行がESMから支援を受けるためには狭義の中核的自己資本比率が4.5%を上回っていなければならず、これに満たない場合は政府に不足分を穴埋めすることを求める。自己資本比率が4.5%以上に達している銀行については、ESMの融資額の20%を政府に負担させる。ただし、融資実施から2年後には負担率を10%まで減らす。

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一方、すでにESMから銀行救済用の金融支援を受けているアイルランド、スペイン、キプロスに対して、同制度をさかのぼって適用し、各国の財政負担を軽減するかどうかについては「ケース・バイ・ケース」で対応することで合意した。

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ESMによる銀行への直接資本注入の前提となっている銀行監督の一元化では、ユーロ圏の大手銀行の監督権を欧州中央銀行(ECB)に移管することになっている。銀行直接支援の開始は当初、2014年上期の予定だったが、監督一元化が遅れているため、下期にずれ込む見通しだ。

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銀行監督の一元化は、「銀行同盟」創設の第1段階。第2段階として銀行の破綻処理を行う共通機関を創設することになっている。21日に開かれたEU財務相理事会で協議された破綻処理のルール統一は、同機関創設の前提となるものだ。

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破綻処理、各国の裁量権めぐり対立

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破綻処理の共通ルール導入は、銀行の経営が危機的状況に陥った際に、各国の判断で無理やり存続させ、結果的にEU全体の金融システムを揺るがす事態を招くのを防ぐと同時に、公的資金の投入を可能な限り抑えながらスムーズに破たん処理を進めるための枠組みを定めるのが目的。理事会では、◇破綻処理に際して、当該銀行の債権者、株主だけでなく、預金保険で保護されない10万ユーロ以上の預金者にも負担を迫るかどうか◇各国の裁量権をどこまで残すか――の2点を中心に、18時間にわたって話し合われたが、加盟国間で大きく見解が分かれ、結論を持ち越した。

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とくに大きな争点となったのが、各国の裁量権。英国など非ユーロ圏諸国は、一定の権限を各国に認めるよう主張した。ESMの支援に頼ることができない立場にある以上、銀行の破綻処理をEUに全面的に委ねるのは受け入れられないという理由だ。金融環境が国によって異なることも強調した。これについて、ユーロ圏ではフランスが同調したが、ドイツ、オランダなどは、強力な財政基盤を持つ国の銀行が公的救済によって破綻を免れやすくなり、競争上の問題があるとして、EUが厳格なルールを設けて処理を一元化する必要があると主要。欧州委員会のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)も「明確なヒエラルキー(支配構造)が必要。公平を期すために、各国の裁量権は限定されなければならない」としている。

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EUは27、28日に開く首脳会議での同問題の合意を目指し、26日に臨時財務相理事会を開催して調整を図る。

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