2013/7/1

環境・通信・その他

車排ガス規制案の協議先送り、独の圧力で=EU首脳会議

この記事の要約

EUは6月27日の首脳会議で、域内で販売される自動車を対象とする新たな二酸化炭素(CO2)排出規制案について議論する予定だったが、規制強化に難色を示すドイツの圧力で協議が先送りされた。加盟国と欧州議会の代表は24日の会合 […]

EUは6月27日の首脳会議で、域内で販売される自動車を対象とする新たな二酸化炭素(CO2)排出規制案について議論する予定だったが、規制強化に難色を示すドイツの圧力で協議が先送りされた。加盟国と欧州議会の代表は24日の会合で、ドイツの要求を一部反映させた内容の妥協案で合意しており、首脳会議で2020年までの削減目標を定めた規制案が正式に承認される見通しだった。メルケル独首相は9月22日の連邦議会(下院)選挙を控え、自国メーカーへの配慮から首脳会議でさらなる譲歩を引き出したい考えだったが、水面下の交渉が不調に終わったため、結論を選挙後に持ち越す方が得策と判断。EU議長国のアイルランドに同案件を議題から外すよう圧力をかけたとみられている。

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EUは15年までの削減目標を定めた自動車の排ガス規制を導入しているが、20年までにEU全体で温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減するという公約の実現に向け、欧州委員会は昨年7月、20年までに乗用車のCO2排出量を走行1キロメートル当たり平均95グラム(g/km)以下に抑えることなどを各メーカーに義務付ける新たな規制案を打ち出した。一方、規制案にはメーカーに対する奨励策として、電気自動車やハイブリッド車などの環境対応車を対象に「スーパークレジット」を適用するルールが盛り込まれている。これはCO2排出量が50g/km未満の低公害車を1台販売するごとに3.5台を販売したとみなし、総排出量を換算後の「みなし台数」で割ることで、他モデルを含めた1台当たりの平均排出量を削減できる仕組み。同措置により、大型車が主体のメーカーも削減目標の達成が可能になる計算だ。ただし、欧州委は実際の販売台数に対する換算係数を段階的に引き下げ、17年末で優遇措置を打ち切ることを提案していた。

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ダイムラーやBMWなど大型車が主体の大手メーカーを擁するドイツはスーパークレジットの適用拡大を強く主張し、同制度を通じて得た「排出枠」を新規制が導入される20年以降に持ち越せる仕組みの導入や、換算係数の見直しなどを求めていた。24日に開かれた加盟国と欧州議会の代表による会合では、最終的にスーパークレジットを20年以降も維持することで妥協が成立し、首脳会議での正式合意が見込まれていた。

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英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、ドイツは首脳会議に向け、規制案の阻止または大幅な修正の方向で他の加盟国への働きを強めていたが、十分な支持を得ることはできなかった。そこでメルケル首相は首脳会議前日にアイルランドのケニー首相と電話で協議し、採決を先送りするよう要請したとされる。首脳会議ではドイツの意向を受けて排ガス規制案を議題から除外したアイルランドの決定に対し、フランス、イタリア、デンマークなどが激しく抗議したもようだが、複数の外交筋によると、フランスは規制案が大幅に変更されないことを条件に、ドイツの議会選挙後まで議論を先送りすることに同意したとされる。

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環境団体などは今回の動きを強く批判している。ブリュッセルに拠点を置くトランスポート&エンバイロメント(T&E)のアナリスト、グレッグ・アーチャー氏は「EUの環境政策において、たった1カ国の圧力でほぼ合意に達していた事案の採決が見送られたケースは前代未聞だ」とコメントしている。さらにEU内からも、長い議論の末にようやく成立した妥協案が白紙に戻る事態を懸念する声が出ている。

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