欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/7/4

EU情報

加盟国が気候変動対策主要法案で合意、新車のゼロエミッション規制案など

この記事の要約

EU加盟国は6月27~29日に開いた2つの閣僚相理事会で、EU排出量取引制度(EU-ETS)の改革案や、新車の排出基準を厳格化する規則案、再生可能エネルギー指令改正案などについて、欧州委員会が提案していた内容を大筋で支持 […]

EU加盟国は6月27~29日に開いた2つの閣僚相理事会で、EU排出量取引制度(EU-ETS)の改革案や、新車の排出基準を厳格化する規則案、再生可能エネルギー指令改正案などについて、欧州委員会が提案していた内容を大筋で支持した。今後、法案成立に向けて欧州議会との交渉に入り、早期の合意形成を目指す。

各法案は、2030年までにEU域内の温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減する目標を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」を構成するもので、欧州委が21年7月に提案していた。欧州議会は既に採決を終えている。

28日~29日未明に開いた環境相理事会では、EU-ETS改革案のほか、乗用車と小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準を厳格化する規則案で合意した。

EU-ETS改革案は、域内全体の排出上限の削減ペースの引き上げや、対象セクターの拡大、無償排出枠の段階的削減を柱とする内容。閣僚理は現行ルールで適用対象となっているセクター(火力発電、鉄鋼、セメント、石油精製などのエネルギー集約型産業やEEA内の航空便など)からの温室効果ガス排出量を、30年までに05年比で61%(現行目標は43%)削減するほか、毎年の排出上限も4.2%(現行は2.2%)引き下げるという欧州委案を支持した。

対象セクターに関しては、新たに海運、道路輸送、建物に適用を拡大することで合意。道路輸送と建物については既存のETSとは別に、新たな排出量取引制度(ETS-2)を立ち上げる案を支持したが、導入時期については1年送らせて27年1月からとすることで合意した。

無償排出枠に関しては、EEA内の航空便への無償割当を26年までに廃止し、27年以降はオークション方式による有償割当とする。また、炭素国境調整メカニズム(CBAM)導入後は対象セクターへの無償割当を27年から段階的に削減し、35年までに廃止する。欧州議会は32年までに廃止する案を採択したが、閣僚理は欧州案を支持した。

乗用車と小型商用車のCO2排出基準に関する規則案については、30年までに新車のCO2排出量を21年比で乗用車は55%、小型商用車は50%削減し、35年までにいずれも100%の削減を実現するという内容で合意した。ゼロエミッション車への移行を加速させるための措置で、これに基づくとEU市場では35年以降、ガソリン車など内燃機関車が実質的に販売できなくなる。

ただ、業界内では100%削減という目標を達成するには充電インフラの大規模な整備が不可欠といった声や、ハイブリッド車も販売禁止の対象となることへの反発が根強く、35年の削減目標を90%に緩和するよう求める動きもあった。このため、閣僚理では26年の時点で欧州委がゼロエミッション化に向けた進捗状況を評価し、必要に応じてプラグインハイブリッド車や合成燃料を含む代替燃料の扱いについて、見直しを行うことで合意した。

一方、27日に開いたエネルギー相理事会では、再生可能エネルギー指令とエネルギー効率指令の改正案で合意した。

再エネ指令改正案では、EU全体での30年時点のエネルギーミックスに占める再エネ比率の目標を、現行指令の「少なくとも32%」から「少なくとも40%」に引き上げる。冷暖房と産業分野について、欧州委は毎年一定の再エネ比率の引き上げを設定することを提案していたが、閣僚理は5年ごとの平均で設定する案で合意した。

エネルギー効率化指令改正案では、20年時点におけるEU全体のベースライン予測値に対して30年までに少なくとも9%改善するとの欧州委案を支持した。

ただし、欧州委は5月、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア産化石燃料依存からの早期脱却を目指す新たな政策案「リパワーEU」を発表した際、30年時点の再エネ比率目標を40%から45%に、効率化目標は9%から13%に引き上げることを提案した。このため、法案成立に向けた欧州議会との交渉では、欧州委が打ち出した新たな目標に近づける方向で協議が行われることが予想される。