EU加盟国は5日、ロシアからの天然ガス供給がさらに減少、または途絶した場合に備え、各国が2023年春までのガス消費を15%削減する目標を定めた規則案を正式に採択した。エネルギー需要が増える冬場に供給不足となる事態を防ぐため、EU全体で十分なガス在庫を確保するための措置。加盟国は7月末のエネルギー相理事会で、欧州委員会が提案していた「ガス需要削減計画」に合意しており、削減目標や例外規定を盛り込んだ規則案が採択されたことで、実施に向けた全ての手続きが完了した。
削減計画に基づき、加盟国は8月1日~23年3月31日の期間、過去5年間の同時期平均と比べて天然ガス消費量を15%削減することが求められる。当初は自主的な取り組みとし、目標達成に向けた具体的措置は各国がそれぞれ決定する。
ただ、欧州経済に打撃を与えかねない一律の削減に難色を示す国も多く、合意形成のため多くの例外規定が盛り込まれた。他の加盟国のガス網と相互接続されていない島しょ国(アイルランドやキプロス)などや、電力網が欧州の電力システムと同期しておらず、発電をガスに大きく依存している国は削減義務が免除される。また、鉄鋼など重要な産業で使用されるガスは削減対象から除外することができる。さらにガス貯蔵目標を早期に達成した場合や、過去1年間のガス消費量が過去5年間の平均と比べて8%以上増加した場合は、削減目標の緩和を求めることができる。
一方、加盟国の自主的な取り組みにもかかわらず深刻なガス不足に陥るリスクが極めて高い場合や、5つ以上の加盟国が国レベルで「警報」を発し、欧州委にEU全体で警報を発動するよう要請した場合、欧州委はEUレベルの警報発動を加盟国に提案し、閣僚理事会が強制措置の是非を最終判断する。欧州委の提案では、エネルギー需給がひっ迫した場合は同委の判断でEUレベルの警報を発動し、加盟国にガス消費の15%削減を義務付けることができるとしていたが、エネルギー相理は閣僚理の役割を強化することで合意した。
ロイター通信によると、5日の会合ではハンガリーとポーランドが規則案に反対したものの、他の25カ国が支持を表明して正式に採択された。ハンガリーはロシアに対して天然ガス供給の拡大を求めており、エネルギー相理でも一律の削減計画に反対していた。一方、ポーランドは削減計画に基本合意していたが、最終段階になって個々の加盟国のエネルギーミックスやエネルギー安全保障に影響を与えるEU規則の合法性を問題視。こうした重要案件は全会一致方式で意思決定すべきだと主張し、反対票を投じた。