フランスのマクロン大統領は9日、スペイン南東部アリカンテで同国のサンチェス首相、ポルトガルのコスタ首相と会談し、2030年までにスペイン北東部バルセロナとフランス南部マルセイユを結ぶ海底パイプラインを完成させる方針で合意した。再生可能エネルギー由来の電力で生成する「グリーン水素」を輸送する。
3カ国は10月に海底パイプラインの建設を柱とするエネルギー供給網の強化で合意していた。パイプラインの設置費用は約25億ユーロ(約3,600億円)に上り、輸送量は年間200万トンに上る見通し。欧州の北部と南部を結ぶ「グリーン水素回廊」の一部と位置づけ、再エネ促進を図るEUに設置費用の最大50%の拠出を求める。
会談に同席した欧州委員会のフォンデアライエン委員長は記者会見で「水素は欧州のゲームチェンジャーだ。EUは気候中立の実現に向け、水素をエネルギーシステムの中心に据えたいと考えている」とコメント。コスタ氏は「イベリア半島の豊富な日射量と風力による再生可能エネルギーが、水素の製造を競争力のあるものにする」と強調した。マクロン氏はさらに、原子力発電の電力で製造される「レッド水素」をフランスからイベリア半島に輸送することも可能になると指摘した。
欧州各国がロシア産ガスの代替調達先の確保を急ぐなか、スペインは北アフリカなどから輸入するガスの輸送拠点となることを目指し、フランスの反対で中止されたピレネー山脈を越えてスペイン北東部とフランス南東部を結ぶパイプライン(通称MidCat)計画の再開を訴えていた。ロシア産天然ガスへの依存脱却を目指すドイツは同計画を支持したが、フランスは採算性や環境負荷の観点から最後まで反対の姿勢を崩さず、最終的に海底パイプラインの新設計画が採用された。欧州のエネルギー危機を緩和するため、10月時点では一時的に「限られた量」の天然ガスも輸送できるようにする方針だったが、EUに一部費用の拠出を求める関係で水素に限定した。