欧州委員会は14日、EU域内で販売される大型車の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案を発表した。2030年以降に新車として販売されるトラックやバスなどのCO2排出量を19年比で現行の30%減から45%減に厳格化し、35年以降は65%減、40年以降は90%減とする。EUが目標に掲げる50年までの気候中立を実現するため、域内における温室効果ガス排出量の6%を占める大型車の排出規制を強化する。
新規則ではトラック(最大重量5トン以上)、バス(7.5トン以上)、被牽引自動車(トレーラー)が規制の対象となる。都市部を走る路線バスについては、30年以降に新車を導入する場合は全てゼロエミッション車にする必要がある。
欧州委によると、トラックやバスなど大型車のCO2排出量は一貫して増え続けており、道路輸送部門の排出量の25%以上を占めている。路線バスは電気自動車(EV)の導入が進みつつあるが、現在は域内を走る大型車の99%をディーゼル車などの内燃機関車が占めている。欧州委は排出基準を厳格化することで、EVや燃料電池車(FCV)の普及が進み、ディーゼルエンジンの燃料である軽油など化石燃料の需要を大幅に削減することができると説明している。
欧州委のティメルマンス上級副委員長(気候変動担当)は記者会見で、大型車のCO2排出量について100%の削減を目標に設定しない理由について、トラックが山岳地帯など厳しい条件の道路を走行するケースを念頭に、現時点で内燃機関車の新車販売を事実上禁止する時期を設定することは技術的な観点から困難だと説明。そのうえで、50年の気候中立に向け「いずれ域内を走るほぼ全ての車をゼロエミッション車にしなければならない」と強調した。
35年に内燃機関車の販売禁止へ、欧州議会が法案採択
一方、欧州議会は14日の本会議で、乗用車と小型商用車(バン)のCO2排出基準に関する規則の改正案を賛成多数で可決した。ガソリン車など内燃機関の新車販売を35年までに事実上禁止する内容で、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も販売できなくなる。閣僚理事会の正式承認を経て新ルールが導入される。
EUは50年までの気候中立に向けた中間目標として、30年までに域内の温室効果ガス排出量を90年比で55%削減することを目指している。欧州委員会は21年7月、この中間目標を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、乗用車と小型商用車の排出規制を厳格化する規則案を提示し、22年10月に欧州議会と閣僚理が基本合意していた。
規則案によると、新車からのCO2排出量を30年までに21年比で乗用車は55%、小型商用車は50%削減し(従来の削減目標は37.5%、31%)、35年にはいずれも100%の削減を目指す。ただし、年間生産台数が乗用車で1万台未満、小型商用車で2万台未満のメーカーについては35年まで排出基準を緩和し、年産1,000台未満のメーカーは引き続き適用除外となる。
一方、CO2排出量が走行1キロメートル当たり50グラム以下の低排出車(ZLEV)の普及促進を目的とするインセンティブについて、排出基準が緩和される条件を厳格化する。現行ルールでは、25~30年に車両メーカーが毎年販売する新車に占める ZLEVのシェアが15%を超える場合に同措置が適用されるが、これを乗用車で25%、小型商用車は17%に引き上げ、30年にインセンティブを廃止する(現行ルールでは乗用車が35%、小型商用車は30%)。
規則案にはこのほか◇欧州委が25年までに乗用車と小型商用車のライフサイクル全体でのCO2排出量を評価するためのEU共通の方法論を策定する◇欧州委が排出基準と現実の燃料およびエネルギー消費データとのギャップを監視し、合成燃料を含む代替燃料技術の開発状況などを考慮して、26年末までに規制の見直しを行う ― などが盛り込まれている。