英国がEUを離脱した後もEUのEU単一市場に残った英領北アイルランドの通商ルールをめぐるEUと英の協議が大詰めを迎えている。欧州委員会のフォンデアライエン委員長と英スナク首相は18日に会談し、同問題での合意に向けて協議が進展していることを確認。向こう数日間に詰めの協議を行うことで合意した。
北アイルランドは英国とEUの離脱協定に盛り込まれた「北アイルランド議定書」に基づき、EU単一市場と関税同盟に残留し、EUの通商ルールが適用される「特区」となった。このため、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となる。
英側は北アイルランド議定書の規定を改正し、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを不要とすることなどを目指している。これにEU側が反発し、北アイルランドの通商ルールをめぐる話し合いは難航が続いていた。
英国内の報道によると、英政府は最大の問題となっている通関について、◇北アイルランドだけで販売される物品については「グリーンレーン」を設け、通関手続きを不要とするか、最小限にとどめる◇北アイルランド経由でアイルランドなどEU域内に輸出される物品は、「レッドレーン」で通常の通関検査を受ける――という妥協案を提示。EU側は大枠で受け入れる方針だ。
また、北アイルランドをめぐるEUと英国の通商紛争をEUの欧州司法裁判所(ECJ)の管轄とするルールに関しては、完全撤廃を求めてきた英国側が歩み寄り、まず北アイルランドの裁判所で処理するものの、「最終的な解決の手段」としてECJの裁定に従うという案を提示したという。
これを受けて英国内では、合意が近いとの観測が浮上。テレグラム紙は13日、2週間以内に合意が正式発表されると報じていた。
フォンデアライエン委員長とスナク首相は、独ミュンヘンで開かれた安全保障会議に合わせて現地で会談。最終合意には至らなかったものの、会談後に発表された共同声明によると、「前向きな話し合い」が展開され、今後数日間に閣僚レベルなどで大詰めの集中協議を行うことで合意した。
英政府はジョンソン政権時の2021年7月、北アイルランド議定書のルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを要求した。しかし、EUとの協議は22年9月にジョンソン氏が辞任したのを機に停滞。後継のトラス政権が短命に終わったこともあって、事実上の凍結状態が続いていた。
スナク首相の就任で風向きが変わり、11月にフォンデアライエン委員長と初会談し、北アイルランドの通商ルールをめぐるEUとの摩擦解消に向けて協議を進めることで合意。双方の協議が進み始めた。
同首相には北アイルランドの政局混迷に終止符を打つためにも、EUとの早期合意にこぎ着けたいという事情がある。22年5月に実施された議会選挙で、議定書を支持するカトリック系のシン・フェイン党が最多議席を獲得して初めて第1党となったが、自治政府の運営には第2党に転落したプロテスタント系民主統一党(DUP)との連立が必要。反議定書派のDUPが議定書の見直し、破棄を求め、連立を拒否していることから自治政府が樹立できない状態にあるためだ。
スナク首相はフォンデアライエン委員長との会談の前日に北アイルランドを電撃訪問し、DUP を含む各政党の代表にEUとの協議の進展状況を説明した。これが英国内で、すでにEUと大枠で合意しており、その承認を得るための地ならしとみなされ、早ければ20日にも合意が正式発表されるとの見方が浮上していた。
スナク首相はフォンデアライエン委員長との会談後に記者団に対して「まだ一件落着ではない」と述べ、合意を否定したが、双方の溝がほぼ埋まっているのは確実で、今週中に合意が発表される可能性も取り沙汰されている。