欧州排出枠価格が初の100ユーロ超え、天然ガス価格下落で生産活発化

EU排出量取引制度(EU-ETS)に基づく排出枠(EUA)価格が21日、2005年の取引開始以来、初めて1トン当たり100ユーロを超えた。欧州では天然ガスを中心にエネルギー価格が下落しているため、市場では燃料費が抑制されることで製造業が生産活動を活発化し、温室効果ガス排出量が上限を超えて排出枠を購入する必要に迫られるとの見方が広がっている。

指標となるEUA先物の取引価格は21日に一時101.25ユーロを記録した。今回の価格上昇は、足元で天然ガス価格が20年9月以来の安値をつけたことが最大の要因と考えられる。欧州では記録的な暖冬で暖房需要が抑えられ、例年より高いガス貯蔵率が確保されている。今月17日には欧州の天然ガス価格の指標となるオランダTTF(翌月渡し)が一時、1メガワット時あたり48.90ユーロまで下落し、ほぼ18カ月ぶりに50ユーロを下回った。ガス価格はその後も昨夏のピーク時と比べて80%以上低い水準で推移している。

また、EU-ETSで規制対象となっている事業者は、22年の温室効果ガス排出量に相当する排出枠を4月30日までに償却しなければならないことや、天然ガスの供給不足で二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電が拡大したこと、さらに対象セクターの拡大や無償排出枠の段階的削減などを柱とするEU-ETS改革の進展が見込まれることなども、取引価格の上昇を後押ししたとみられている。

排出枠価格は長年にわたり1トン当たり10ユーロ未満と低迷し、18年~20年は20~30ユーロで取引されていた。EUが50年までの気候中立に向け、30年までに域内の温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減するという野心的な中間目標を掲げる中、21年からは上昇に転じ、1年前のロシアによるウクライナ侵攻直前には97ユーロ台を記録。気候変動対策の推進を背景に130ユーロ前後まで上昇するとみられていた。

しかし、ウクライナ侵攻を契機とするエネルギー価格の高騰に景気後退への懸念が加わり、工場の稼働率が低下して排出枠価格は急落。エネルギー価格が落ち着いた昨秋以降は、製造業の生産拡大に伴う需要増を見込んで排出枠価格が上昇傾向にあった。

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