欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2023/3/13

EU情報

欧州委が公的補助ルールを一時緩和、米国と同等の支援が可能に

この記事の要約

欧州委員会は13日、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)をはじめとするグリーン産業の競争力強化を目的とする「グリーンディール産業計画」の一環として、加盟国がネットゼロ産業(温室効果ガス排出の実質ゼロに貢献する産業)に対 […]

欧州委員会は13日、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)をはじめとするグリーン産業の競争力強化を目的とする「グリーンディール産業計画」の一環として、加盟国がネットゼロ産業(温室効果ガス排出の実質ゼロに貢献する産業)に対して補助金を提供しやすくするため、EU公的補助規則を一時的に緩和する「暫定危機対応・移行枠組み」を採択した。EV購入支援策などを盛り込んだ米国のインフレ抑制法や、多額の補助金と緩い環境規制で企業誘致を強力に進める中国に対抗するため、戦略的に重要な分野に対し、一定の条件の下で域外国と同等の補助金や税控除などの支援を提供できるようにする。

EUは特定の企業に対する国家補助を原則として禁止しているが、ロシアのウクライナ侵攻を起点とするエネルギー危機を受け、欧州委は2022年3月、国家補助規則を期限付きで緩和する「暫定危機対応枠組み」を採択した。同枠組みは昨年7月と10月に更新され、23年末までの適用が決定している。今回の暫定危機対応・移行枠組みは、米国のインフレ抑制法などを念頭に、暫定危機対応枠組みを拡大し、加盟国がより広範なプロジェクトに有効な支援策を講じられるようにしたもの。25年末までの時限措置となる。

新たな枠組みは再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、工業生産プロセスの脱炭素化など、ネットゼロの実現に貢献する幅広いプロジェクトに適用される。再エネ関連ではあらゆる技術が適用対象となり、小規模プロジェクトや発展途上の技術については一定の条件下で競争入札の要件を免除する。

多額の補助金で企業誘致を進める域外国との間で公正な競争環境を確保するため、税優遇策や融資、政府保証などを通じて重要分野を重点的に支援できるようにする。ただし、加盟国は欧州委の承認を得る際、対象企業が補助金を理由にEU域外に移転するリスクがあることや、逆にEU内での移転リスクはないことを証明する必要がある。

現実的に域外への移転リスクがあるケースでは、対象となる企業に対してより手厚い支援を提供することが可能になる。具体的には対象企業が移転先で受ける予定の支援額(マッチング援助)と、域内でプロジェクトを進めるためのインセンティブとして必要な額(資金ギャップ)のうち、低い額を提供することを認める。ただし、欧州委が指定する支援地域(1人当たりGDPがEU平均より低い地域)で行われるプロジェクトであること、または3つ以上の加盟国をまたぐプロジェクトで、かつ投資計画の大部分が2つ以上の支援地域で実行されることが条件となる。これはEU内で補助金競争に発展し、資金豊富な一部の加盟国とそれ以外の加盟国の間で競争環境がゆがめられるとの懸念に対応するための措置だ。このほか環境への影響に配慮して、対象企業は最先端の生産技術を導入することが求められる。