EUと英の北アイルランド合意、地元政党が見直し要求

英国領北アイルランドの民主統一党(DUP)のドナルドソン党首は14日、EU単一市場に残った北アイルランドの通商ルール見直しをめぐるEUと英政府の合意内容について不服を示し、英政府にさらなる見直しを求める声明を発表した。英政府は約3年にわたる協議を経て、EUとようやく合意にこぎ着けたが、カギとなるDUPによる承認はすんなりとはいかず、難しい対応を迫られることになる。

EUと英国が2019年10月に合意した離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて北アイルランド議定書が盛り込まれ、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにするのが狙いだ。

その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となる。これについて英政府は、同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを21年7月に要求。これに反発するEUとの協議が難航していた。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長と英スナク首相が2月27日に合意した「ウインザー・フレームワーク」と称される見直し案では、最大の焦点となっていた通関について、北アイルランドだけで販売される物品については通関手続きを大幅に減らすのを柱とする内容。北アイルランド経由でアイルランドなどEU域内に輸出されるか、輸出される可能性がある物品は、通常の通関検査を受ける。

北アイルランドをめぐるEUと英国の通商紛争をEUの欧州司法裁判所(ECJ)の管轄とするルールに関しては、ECJ がEU法に関する「唯一にして究極の調停機関」であることを確認した一方で、北アイルランドでの権限を減らす。

北アイルランドでは22年5月に実施された議会選挙で、議定書を支持するカトリック系のシン・フェイン党が最多議席を獲得して初めて第1党となったが、英国への帰属意識が強い第2党のプロテスタント系DUPが連立議定書の見直し、破棄を求めて連立を拒否し、自治政府が樹立できない状態にある。英政府はDUPが合意を受け入れることで、北アイルランドの政治空白に終止符を打ちたい考えだ。

ドナルドソン党首は当初、合意内容を「大きな前進」と形容し、一定の評価を与えていた。しかし、声明では「現時点での私自身の評価は、主要分野で懸念が残っており、さらなる説明と改定、変更が必要というものだ」として、英政府に対応を求めた。

声明では「懸念」の具体的な内容に触れていないが、ドナルドソン党首はBBCとのインタビューで、EU法が北アイルランドで適用されることや、北アイルランドの英市場での地位、通関手続きが全廃されていないことなどを挙げた。

DUPは党内に設けられた部会が合意内容を精査し、3月末までに報告書を党に提出することになっている。すでに同党は英政府との協議に着手しているが、報告書に沿って具体的な要求を英政府に突き付ける。英政府が望む北アイルランドとアイルランドの和平合意25周年に当たる4月10日までの決着は、時間的に難しそうだ。

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