EUは3月28日開いたエネルギー相理事会で、2035年以降は電気自動車(EV)などゼロエミッション車以外の新車販売を事実上禁止する法案を正式承認した。閣僚理事会と欧州議会は内燃機関(エンジン)車の新車販売を全面禁止する法案の内容で合意していたが、最終的にドイツの主張を受け入れて方針転換し、合成燃料を使用する場合に限って35年以降も販売を容認することになった。
「e-Fuel(イーフューエル)」と呼ばれる合成燃料は、再生可能エネルギー由来の水素と発電所や工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を合成して生成される。ガソリンなどと同様に燃やせばCO2を排出するが、製造時に大気中のCO2を回収して利用することが可能で、温室効果ガスの排出は「実質ゼロ」とみなされる。独ポルシェなどが研究で先行し、石油メジャーの英シェルなどが開発に取り組んでいる。エンジン技術が生かせ、ガソリンスタンドなどで供給できるメリットがある一方、生産コストが高く、乗用車向けに商用化されるかは現時点で不透明だ。
EUは50年までの気候中立に向けた中間目標として、30年までに域内の温室効果ガス排出量を90年比で55%削減することを目指している。欧州委は21年7月、この中間目標を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、乗用車と小型商用車の排出規制を厳格化する規則案を提示。35年以降はEVや燃料電池車などのゼロエミッション車に限って新車販売を認め、ガソリン車やディーゼル車に加え、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も域内での販売を事実上禁止することを提案した。
欧州議会と閣僚理は22年10月に規則案の内容で基本合意し、今年2月には欧州議会が正式に採択。閣僚理の正式承認を残すのみとなっていた。しかし、自国に大手自動車メーカーを抱えるドイツが合成燃料を使用する内燃機関車の販売を認めるよう主張し、修正しなければ規則案を支持しない意向を表明。3月7日に予定されていた採決が延期され、最終局面で法案成立の見通しが不透明になっていた。
ロイター通信などによると、エネルギー相理での採決ではポーランドが反対票を投じ、イタリア、ルーマニア、ブルガリアは棄権した。ポーランドはゼロエミッション化が社会・経済に及ぼす影響は加盟国によって異なると反対理由を説明。バイオ燃料の利用推進を狙うイタリアは、合成燃料のみを容認する改正案は技術中立の原則に反すると主張した。
欧州委は声明で、合成燃料のみを使用する場合に限って販売を容認する点を強調。合成燃料の基準や利用条件などについても厳格なルールを策定する方針を示した。