EU司法裁判所の一般裁判所は10日、新型コロナウイルス禍で経営が悪化した独航空大手ルフトハンザに対するドイツ政府の救済策を承認した欧州委員会の決定を無効とする判断を示した。欧州委はルフトハンザの資金調達力を過小評価するなど、いくつかの点で評価を誤ったと指摘している。ルフトハンザは既に返済が完了したと説明しており、裁判所の判断が事業に与える影響は限定的とみられる。
ドイツ政府は2020年5月、コロナ禍による運航休止の影響で経営危機に陥ったルフトハンザに対する最大90億ユーロ(約1兆3000億円)の公的支援を決定した。政策金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)が民間銀行と共同で30億ユーロの協調融資を行うとともに、政府の企業救済ファンド「経済安定化基金(WSF)」を活用して、3億ユーロで同社株式の20%を取得し、57億ユーロを議決権のない形で出資するという内容。欧州委はルフトハンザがハブ空港として使用するフランクフルトとミュンヘン空港における発着枠の一部譲渡などを条件に、独政府による救済策を承認した。
アイルランドの格安航空大手ライアンエアーはこれに対し、コロナ禍で苦境に立つ航空業界でルフトハンザの市場支配的地位がさらに強化され、公正な市場競争が阻害されるとして一般裁判所に提訴していた。
一般裁判所は判決で、コロナ禍を受けて迅速に判断する必要があったものの、欧州委はルフトハンザの資金調達力や市場における支配的地位を過小評価したほか、迅速な返済を促すためのインセンティブを提供しなかったと指摘。独政府による救済策の無効化を求めるライアンエアーの主張を認める判断を示した。判決に不服の場合はEU司法裁に上訴できる。
ライアンエアーの広報担当は「欧州委は航空輸送における公平な市場競争を確保するために行動しなければならず、各国政府による政治的圧力の下で差別的な国家補助を承認することはできないことを確認した」と述べ、判決を歓迎。一方、欧州委の報道官は「判決内容を慎重に分析し、次のステップを検討する」と述べるにとどめた。