欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2023/6/26

EU情報

EUが電力市場改革案で合意できず、石炭発電所への補助などで対立

この記事の要約

EU加盟国は19日開いたエネルギー相理事会で、電力の市場価格を安定化させるための電力市場改革案について協議したが、容量メカニズムに基づく石炭火力発電所への公的補助などをめぐって加盟国の意見が分かれ、合意することができなか […]

EU加盟国は19日開いたエネルギー相理事会で、電力の市場価格を安定化させるための電力市場改革案について協議したが、容量メカニズムに基づく石炭火力発電所への公的補助などをめぐって加盟国の意見が分かれ、合意することができなかった。EU加盟国の大使級会合で改革案について引き続き協議し、6月末までの合意形成を目指す。

欧州では2021年夏以降、エネルギー価格が上昇していたが、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機にかつてない水準まで高騰し、EU域内の企業や家計に深刻な打撃を与えた。昨年8月をピークに、その後は下落に転じたものの、国際情勢の変化などによって再びエネルギー価格が高騰する可能性もある。欧州委は今年3月、急激な価格変動から消費者を保護し、安定供給を確保しながら再生可能エネルギー由来の電力利用を推進するため、電気料金が天然ガス価格に大きく依存する現行システムの改善に主眼を置いた電力市場改革案を発表した。

今回の議論で焦点となったのは、安定的に供給力を確保する手段として広く導入されている容量メカニズムをめぐる問題。これは太陽光や風力などの再生可能エネルギー電源が増大すると、再エネ電源のバックアップとしての役割を持つ火力などの電源が卸電力市場から追い出されることになるため、供給力を確保する手段として発電量(kWh)ではなく、発電容量(kW)に対価が支払われる仕組みで、実際には火力発電所への公的補助として機能している。

EU議長国スウェーデンは理事会で、石炭火力発電の供給能力維持に必要な費用を補助する容量メカニズムを加盟国が継続できるようにすることを提案した。同国のブッシュ・エネルギー相は提案の理由について、電力需要の約70%を石炭火力発電で賄っているポーランドは、28年まで公的補助を継続できる可能性があり、同国が安定的に電力供給を確保できれば隣国ウクライナへの支援のつながると説明した。しかし、ドイツ、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルクなどは再生可能エネルギーへの移行を推進するEUの政策と矛盾し、50年までの気候中立に向けた目標達成の妨げになるとして反対を表明した。

一方、欧州委は消費者を急激な価格変動から保護するため、長期的に固定価格で電力供給を受けられるようにすると同時に、価格変動型の契約も結べるようにすることを提案していた。この点についてドイツ、オーストリア、オランダは、長期の固定価格契約を認めると公正な競争が阻害される恐れがあると指摘。これに対し、フランスなどは安定供給と消費者保護の観点から固定価格契約を制限すべきではないと主張し、双方の溝は埋まらなかった。